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そもそも半導体って何?

最近、半導体関連のニュースをよく目にしますが、そもそも半導体とは何でしょうか?

鉄やアルミニウムなど、電気を通す物体が導体、木やゴムなど電気を通さない物体が不導体と呼ばれるので、半導体は、半分だけ、もしくは少し電気を通す物、と考えてしまいそうですが、そうではありません。半導体は、条件によって電気を通したり、通さなかったりする物質のことで、シリコンなどがこれにあたります。

また、そのような物質を使って作る、電流を制御する部品も慣用的に半導体と呼ばれます。

例えばダイオードは、特定の方向に電圧をかけた場合に電流が流れ、逆にした場合は流れない、つまり、電流を一方通行にする機能を持つ半導体部品です。

トランジスタは、小さな電流を数百倍の大きな電流に増幅したり、信号によって電流を流したり止めたりするスイッチのように使用される半導体部品です。

ただ実は、「半導体価格が高騰している」とか「半導体関連の株価が上がっている」とか言う場合の「半導体」は、これらの意味での半導体ではありません。

この場合は、多数のトランジスタなどの部品を配線で接続して作った部品のことを指しています。つまり、半導体と一般的に呼ばれているのは、「半導体で作った集積回路」のことなのです。

半導体製品は、いくつかの種類に分けることができます。

まず、NANDフラッシュです。パソコンのハードディスク・ドライブに替わって普及してきたSSDに搭載されている半導体メモリで、人間の脳に例えるならば、長期記憶に相当する役割を担っており、パソコンの電源を切っても、記録された内容は長期間消えることがありません。

次に、DRAMです。これも半導体メモリですが、NANDフラッシュとは異なり、高速に読み書きができる一方で、電源を切れば記録内容が消えてしまうという特徴があります。そのため、人間の脳でいえば、短期記憶に相当する役割を担っています。

それからプロセッサです。MPUとかCPUとも呼ばれ、メモリから受け取った情報を演算処理します。人間の脳でいえば「考える」役割を担います。

アナログICという分類もあります。1と0の羅列で表されるデジタル信号ではなく、連続的なアナログ信号を扱う半導体集積回路です。アナログ信号をデジタル信号に変換するADコンバーターや、逆にデジタル信号をアナログ信号に変換するDAコンバーター、交流を直流に変えたり電圧を下げるなどするパワー半導体などがこれにあたります。

以上はいずれも半導体で作った集積回路ですが、集積回路以外の半導体製品としては、まずイメージセンサを挙げることができるでしょう。レンズから入った光を電気信号に変換する、人間でいえば網膜の役割を担う半導体製品です。

LEDも集積回路以外の半導体製品です。LEDは、順方向に電圧を加えると発光する半導体材料が使われています。

もちろんトランジスタやダイオードも、集積回路ではない半導体製品で、これらは、「別々の」という意味のディスクリートと呼ばれます。

それから、メモリやプロセッサ、アナログIC、イメージセンサなど、複数の半導体部品を一個のチップのうえにまとめて搭載したSoCという半導体製品もあります。ほぼ同じ意味で、システムLSIと呼ばれることもあります。

同様に複数の半導体部品をひとつのチップのうえに搭載しているけれども、比較的集積度が低いものはマイコンと呼ばれます。SoCがスマートフォンのような、演算機能が中心の高度な機器で使用されるのに対し、マイコンは冷蔵庫や炊飯器など、制御機能が中心の比較的シンプルな機器で使用されています。

世界の半導体市場の動向をまとめた世界半導体取引統計(WSTS)によると、2020年の半導体の製品別出荷額はグラフのようになります。

半導体製品の出荷額のうち、集積回路の出荷額が大半を占めていること、なかでも、スマートフォンに搭載されるSoCとメモリで、全体の過半を占めていることなどがわかります。


半導体の製造工程

半導体製品の製造工程は、「設計」、シリコンの板である「ウェハ製造工程」、ウェハの上に回路を形成する「前工程」、そのウェハをチップに切り出す「後工程」の四段階に分けることができます。

設計では、トランジスタや配線の回路パターンの図面を作り、それをガラスの板の表面に、実際の回路よりも大きな回路パターンを描いて、フォトマスクと呼ばれる原版を作成します。

シリコンウェハ製造工程では、シリコンの塊であるシリコンインゴットを薄くスライスしてウェハを作り、ウェハを研磨剤を使って鏡のように磨きます。

前行程は、表面を酸化させたウェハの上に、配線やトランジスタなどになる薄い膜を付着する「成膜」、薄い膜の上にフォトレジストという感光剤を塗って、設計段階で作成されたフォトマスクに描かれた回路パターンから縮小レンズで縮小された回路パターンで露光して現像する「パターン転写」、回路パターンが現像されたフォトレジストをマスクにして、不要な部分を削り取り、薄膜を配線等の形に加工する、「エッチング」、半導体の電気的特性を変化させる「イオン注入」と進みます。

成膜、パターン転写、エッチング、イオン注入に加え、洗浄やウェハの表面を研磨して凸凹をなくす工程を何回か繰り返し、ウェハを何層にも積み重ねていきます。

そして、チップに電流を流すための電極を埋め込み、検査を経て、後工程へ進みます。

後工程は、ウェハをダイヤモンドブレードで小さく切り分けてチップにする「ダイシング」、チップを所定の位置に金属等で接続して固定し、腐食を避けるために樹脂などで封入する「パッケージング」、「最終検査」というプロセスになります。


半導体製造企業

グラフは、世界の半導体製造企業の出荷額のシェアを示したものです。

このうちのシェア2位のサムスン電子や3位のSKハイニックス、3位のマイクロン・テクノロジーはいずれもメモリーの製造を中心に行っています。

そのメモリーを、DRAMとNANDフラッシュとに分けてそれぞれみてみると、DRAM、NANDフラッシュのいずれにおいてもサムスン電子が1位で、40%前後のシェアをもっています。SKハイニックスも含めると、DRAMでは実に70%超、NANDフラッシュでも45%を韓国企業が占めており、この分野での韓国企業の強さが際立っています。

NANDフラッシュで第2位のキオクシアは、東芝が半導体部門を分社化し、アメリカの投資会社やSKハイニックスなどの出資を得て設立された会社です。

それからマイクロン・テクノロジーの子会社にマイクロンメモリジャパンという会社があるのですが、これは、NECと日立と三菱電機のDRAM事業が統合されて設立され、のちに破綻したエルピーダメモリを、マイクロン・テクノロジーが買収して設立した会社です。

半導体出荷額第1位のインテルの他、第5位のブロードコム、第6位のクアルコム、そして10位のアップルは、プロセッサの製造が中心です。

「インテル入ってる」のCMでおねじみのインテルは、長く半導体出荷額ランキング一位の座に君臨してきましたが、次の章でお話しするように、2017年から2018年にかけて、サムスン電子が得意とするメモリの出荷が急増したため、サムスン電子の後塵を配することとなりました。しかし2019年に、ブームの反動でメモリの出荷が大きく落ち込んだため、インテルが1位に 返り咲きました。

出荷額ランキングのベストテンには入っていませんが、プロセッサの製造企業としては、アメリカのエヌビディアが有名です。エヌビディアは、画像処理半導体、GPUの大手で、大量の計算を得意とするGPUの技術が人工知能の分野に転用できることから、AIや自動運転の分野でこのところ急成長しています。

それから、アメリカのアドバンスト・マイクロ・デバイス、AMDも、売上高はインテルの10分の1にも満たないものの、比較的安価で高性能のパソコンを販売していることから、知名度が高いCPUメーカーです。

プロセッサ製造の大手はアメリカの企業がほとんどですが、台湾のメディアテックはスマホ向けのCPUなどの製造で売上を伸ばしています。

メモリやプロセッサ以外の半導体製品中心に製造する企業のうち、アメリカのテキサス・インスツルメンツは、アナログ半導体の最大手です。

スイスのSTマイクロ・エレクトロニクスはマイコンの大手で、MEMSセンサや各種車載部品など、幅広い製品群を有しています。

オランダのNXPセミコンダクターズは、家電大手のフィリップスから分社化した会社です。マイコン製造で世界2位の大手で、ディスクリート製品なども生産しています。

半導体製品出荷額ランキングのベストテンではありませんが、マイコンやイメージセンサなどでは日本企業の善戦がめだちます。

自動車に搭載されるマイコンの生産で世界首位のルネサスエレクトロニクスは、三菱電機と日立から分社化したルネサステクノロジーと、NECから分社化したNECエレクトロニクスが経営統合して2010年に設立された会社です。

ソニーは、イメージセンサの生産で、世界で50%を超える圧倒的シェアを有しています。

画像処理や通信関連のシステムLSIを製造するソシオネクストは、富士通セミコンダクターとパナソニックのLSI事業を統合して2015年に設立された会社です。

インテルやサムスン電子、メモリの各メーカー、多くの日系メーカーは、自社で設計から製造までおこなっていますが、プロセッサ等の製造では設計と製造を分業する場合が多くなっています。

工場を持たずに設計を専門に行う企業をファブレスといい、クアルコム、ブロードコム、アップル、エヌビディア、AMDといった企業はみなファブレス企業です。一方、製造を専門に行う企業をファウンドリといいます。

半導体メーカーには、半導体製品の製造には巨額の設備投資が必要となるため、自社は設計に特化し、製造を外注することにメリットがあります。とはいえ、設計から製造までをおこなっている企業に外注すると、技術が流出してしまう恐れがあります。そこで、他社の外注を受けて製造に特化する、ファウンドリに製造を委託するケースが増えていきました。

ファウンドリの代表格が台湾のTSMCです。

TSMCは、世界のファブレス企業の製造を一手に引き受けることで、世界で最高水準の製造技術を身に着けていきました。半導体製品の性能は回路の線の幅を細くすればするほど性能が高まりますが、TSMCは他のどの企業もまねができない、5ナノメートルの製造を実現しています。

最先端の技術を競っているプロセッサなどの製造メーカーにとって、TSMCは今や欠かせない存在となっており、クアルコム、アップル、エヌビディア、AMD等がTSMCに5ナノメートル半導体の製造を委託しています。自社で設計から製造までおこなっているインテルも、自社での微細化が思うように進んでいないことから、一部のCPUの製造をTSMCに委託しています。

半導体は産業のコメとも呼ばれますが、社会にとってなくてはならない存在となっているTSMCは急成長しており、その株式時価総額は約60兆円に達し、トヨタ自動車の約2倍、世界の企業のなかでベスト15に入る超巨大企業となっています。

半導体関連の企業としては、他にも多数の半導体製造設備を生産する企業があります。

グラフは、そのうちの前工程の製造設備生産企業の出荷額のシェアを示したものです。

これによると、半導体製造設備の生産では、多数の日本企業が上位に入っています。

首位のアプライド・マテリアルズは、半導体製造プロセスのほぼ全ての設備の販売を行うアメリカ企業です。2013年には東京エレクトロンを買収しようとしましたが、アメリカ司法省の承認が得られず断念ました。

第2位のASMLはオランダの企業で、露光装置の販売が中心ですが、売上高では首位のアプライド・マテリアルズに迫る巨人です。

第3位のラムリサーチは、成膜装置やエッチング装置等を販売するアメリカ企業です。

そして日本の東京エレクトロンが第4位です。成膜装置、感光剤塗布現像装置、エッチング装置などを販売しています。

以下、日本の半導体製造設備製造企業を簡単にご紹介すると、スクリーンホールディングスはウェハの洗浄装置で断トツ世界トップのシェアをもっています。

日立ハイテクは、エッチング装置や計測装置を販売しています。

搬送・保管システムで世界トップクラスのダイフクは、半導体のクリーンルーム向けの搬送・保管システムも提供しています。

元々はカメラメーカーであるニコンやキャノンは、半導体露光装置も手掛けています。

アドバンテストは、メモリ検査に強みをもつ、半導体検査装置の大手企業です。

村田機械は、半導体のクリーンルームのファクトリー・オートメーションシステムも販売していますです。

ディスコは、前工程の最後にウェハの裏面を磨いたりする装置や、後工程でウェハを切り分けする装置などで60〜80%の高いマーケットシェアを有しています。

コクサイ・エレクトリックは、日立系列の会社の成膜装置事業が分社化して誕生した会社です。アプライドマテリアルが買収する計画がありましたが、中国当局からの承認が得られず、断念しました。

半導体製品の製造で分業が進んでいる理由のひとつは、

ファウンドリー企業は、ファブレス企業からの仕事を受けて半導体を製造しているのですが、単なる下請けではなく、なくてはならない、非常に重要な存在となっています。

半導体製品の性能は、トランジスタをいかに小さくできるかにかかっています。

1990年頃からパソコンの普及に伴って、パソコン用のメモリやマイクロプロセッサが急拡大しました。そして2000年頃からはロジックの分類が急拡大していますが、これはスマートフォンの普及により、スマートフォンに搭載されるSoCの出荷が急増したためです。

グラフは、同じくWSTSによる、2022年の製品別出荷額の予測を示したものです。

グラフは世界の半導体市場の成長の過程を示したものですが、半導体市場の規模は1960年から1995年にかけて、パソコンの普及に伴い、年率17%もの高成長を遂げ、その後、1995年から2010年は年率5%、2010年から2015年は年率2%強と成長が鈍化していきました。ただ、あとでみるように、ここにきて再び成長率が高まっています。

次に地域別の市場シェアの変遷のグラフです。1980年代初頭まではアメリカが圧倒的で、90年前後は、 の生産を伸ばした日本が世界の半導体市場を席巻しました。しかしその後、シェアをどんどん落としていき、最近では10%をも下回ってしまっています。かわってシェアを伸ばしたのが韓国と台湾、中国の東アジア勢です。アメリカはマイクロプロセッサ等の付加価値の高い半導体製品にシフトして、2000年頃以降、一貫して高いシェアを保っています

では、最近の状況をみてみましょう。グラフは2011年以降の世界の半導体製品の出荷金額を示したものです。2016年まではほとんど横ばいですが、その後、世の中のIT化の急拡大に伴い増加傾向となっています。

なかでも、2017年には前年比22%、2018年も前年比14%もの急増となっていますが、

種類別の出荷額をみてみると、2017年から2018年にかけて、メモリの出荷額が大きく伸びていることがわかります。この時期、クラウドが普及し始めたことからデータセンター向けのDRAMの需要が高まったこと、ゲーム機向けの高性能グラフィックスDRAMの需要も増えたこと、スマートフォンの高性能化によりDRAMの容量が増えたことなどが出荷急増の理由です。

DRAMの需要は、一時的に大きく盛り上がると、その翌年や翌々年に、反動で大きく落ち込む傾向があり、2019年は、絶好調だった2017年と2018年の反動で、前年比マイナス30%を超える減少となりました。

その結果、半導体市場全体でも、2019年はマイナス12%ものマイナス成長となりました。

そして、2020年ですが、年初の段階では、2017から2018年のブームの反動も残っているので、高い成長は期待されていませんでした。また、春頃には、新型コロナ感染症の大流行により、ゼロ成長か、マイナス成長となることが予想されました。

ところが実際には、テレワークやオンライン授業が一気に増えたためパソコンやインターネット接続機器の出荷が増えたこと、家で過ごす時間が増えたためにゲーム機器の販売が好調となったこと、5Gスマートフォンの出荷が本格化したこと、新型コロナからいち早く立ち直った中国で電気自動車等、自動車需要が急回復したことなどから、半導体に対する需要は、予想とは逆に、大いに盛り上がりました。

その結果、半導体需要に供給が追いつかず、2020年の末には半導体不足が鮮明になってきました。

半導体不足の影響が色濃く出たのが自動車業界です。今の自動車は、エンジンの燃焼状態の制御や変速機の制御など、あらゆる場面で半導体が使われています。1台の車に搭載されているマイコンの数は数十個に及びます。

自動車メーカー各社は、半導体なしでは車を作ることはできず、半導体不足を理由にした生産ラインの停止を相次ぎ発表しました。

2021年3月には、自動車に搭載されるマイコンを生産するルネサスエレクトロニクスの工場で火災が発生し、これが半導体不足に拍車をかけました。

半導体の増産には時間がかかるので供給はすぐには増えず、一方で需要は、5Gスマートフォン、電気自動車や自動運転の普及が進むことや、クラウド・コンピューティングや仮想資産の採掘が拡大すると予想されることなどから増え続けるでしょう。そのため問題は長期化する見込みであり、不足が解消されるのは2023年との見方もあります。

日常生活でも、「インフレ」ということばを頻繁に目にしたり耳にしたりしますが、インフレとはそもそもなんでしょうか。

インフレは、英語の「膨張」の意味のインフレーションを略した和製英語で、モノやサービスなどの価格が継続的に上昇することです。

インフレは、多くの種類の物が値上がりすることを意味し、商店主が売れ筋商品を値上げするような場合は単なる値上がりであり、通常インフレとは言いません。

インフレとは反対にモノやサービスなどの価格が継続的に下がる状態は、デフレーションの略で、「デフレ」と呼ばれます。

「インフレ」ということばには、ネガティブな響がありますが、インフレの何が悪いのか、はっきりと言える人はあまり多くないのではないでしょうか。全てのモノの価格が一律に上がっても、それと同じ率で全ての人の賃金が上がれば、ほとんど誰も損をすることはなく、すなわち、インフレが発生してもなんら問題はない、と言うことができます。

インフレの最大の問題点は、得をする人と損をする人がいる可能性が高い、ということです。モノの価格が一律に上昇する場合、現金や普通預金をもっている人は、その実質的な価値が目減りするので損をします。年金で生活する人も、年金受給額はすぐには増えないので、インフレで被害を受けます。賃金の上昇が物価の上昇に遅れるのであれば、企業家や株主に比べて労働者が損をすることになります。つまりインフレによって、本人の意思や努力とは関係なく、得をする人と損をする人が発生してしまうのですが、これを経済学的なことばでは、「インフレーションには、強制的な所得再分配機能がある」、と表現されます。強制的な所得再分配が起きると、不公平だから問題、というのはもちろんですが、労働者が働く意欲を失ったり、社会不安が増大したりするなどの悪影響を生む恐れもあります。

なおこれは、かならずしも悪いこととも言えないのですが、強制的な所得再分配機能という観点からは、財政ファイナンスの問題もあります。

政府が発行する国債を国の中央銀行が引き受ければ、実質的に、紙幣を印刷して、財政支出を行うのと同じになります。極端なインフレを起こす恐れがあることから、中央銀行による財政ファイナンスは、日本では法律で禁止されていますが、実際には、いったん市場に出された国債を日銀がすぐに大量に買い入れる形で、実質的な財政ファイナンスが行われています。

財政ファイナンスが深刻なインフレを生んだ例は、世界の歴史では何度かありますが、そのうちのひとつが、前回の動画でご紹介した、第二次世界大戦中に日本が、必要物資を調達するために、中国大陸で大量の紙幣を発行し、86400倍ものインフレを引き起こした事例です。

この例などは、市民から強制的に資源を吸い上げて、それで戦争を遂行し、そのうえ深刻なインフレを起こして経済を大混乱に陥れたという意味で、財政ファイナンスが悪用されたケースと言うことができます。

ただ一方で、インフレがインフレを呼ぶような高率の物価上昇につながらないのであれば、財政ファイナンスを積極的に活用すべき、との考え方もあります。財政支出を増やすために税金を徴収すれば、必ず誰かが得をしたり損をしたりしますし、税制を改正しなくてはならず、納税の手間や徴税にかかるコストもかかります。それよりも紙幣を発行して資金を調達したほうが公平だし、手間やコストも少なくて済んで、ずっといいという考え方です。MMTと呼ばれる考え方ですが、MMT理論については以前の動画で詳しく説明していますので、興味のある方はぜひごらんください。

インフレには、経済の効率性を低下させる可能性があるという問題点もあります。

例えば、1年に物価が何倍にもなる、いわゆるハイパー・インフレが発生すると、人々は、お金を持つのを嫌うようになります。すると、買いだめや、売惜しみが生じるでしょうし、取引は物々交換で行わなければならなくなるかもしれず、経済の効率性が大きく下がることになります。

また、スーパーで売られているような値段を変更しやすいモノもあれば、値段が印刷されている場合など、価格を変更しにくいモノもあり、社会全体でインフレが生じる時に、値段が平均以上に上がる物も、ほとんど上がらない物もあるため、価格の体系が崩れてしまいます。企業は値段を見ながら何をどのくらい作ればいいかを判断し、消費者は何をどのくらい買えばいいかを判断するので、一時的に価格体系がおかしくなると、企業や消費者の行動が、経済的に効率的ではなくなってしまう恐れがあります。

また、スーパーで売られているような・値段を変更しやすい物もあれば、値段が印刷されている場合など・価格を変更しにくい物もあるので、社会全体でインフレが生じると・値段が平均以上に上がる物やほとんど上がらない物が出てきて、価格の体系が崩れてしまいます。 企業は、値段を見ながら何をどのくらい作ればいいかを判断し、消費者は何をどのくらい買えばいいかを判断するので、一時的に価格体系がおかしくなると、企業や消費者の行動が、経済の効率性の観点から最適なものではなくなる恐れがあります。


インフレの原因〜デマンド・プルとコスト・プッシュ

グラフは物価水準と国民所得の関係を示したもので、緑の線は、消費者などが、いくらなら、どのくらい買うかを示す総需要曲線、青い線は、企業などが、いくらなら、どのくらい売るかを示す総供給曲線です。

人々が、貯金を取り崩して消費を増やしたり、金融政策により金利が下がり企業が投資を増やしたりすると、総需要曲線は右のほうへ移動していき、その結果、物価水準が上昇します。第5章でお話しするように、このところアメリカで物価上昇率が高まっていますが、これは、新型コロナ感染症対策の巨額の給付金支給により個人が消費を大きく増やし、その結果総需要曲線が右にシフトしたため、と言うことができます。

また、輸入原材料価格が上昇したりすると、総供給曲線がこのように移動するので、やはり物価水準が上がります。1970年代の石油危機は、総供給曲線がシフトして物価が高騰した典型例です。

この・総需要曲線のシフトによる物価上昇は、需要が引っ張る・という意味で、デマンドプル型インフレと呼ばれます。一方で総供給曲線のシフトによる物価上昇は、コストの増加が押す・という意味で、コストプッシュ型インフレと呼ばれます。デマンド・プル型では、需要が増加し、モノが売れるようになり、すると賃金も増加し消費も増える、という好循環が生まれ、国民所得は増える傾向があるので、「良いインフレ」と呼ばれることもあります。一方、コスト・プッシュ型は、モノの価格だけが上がり、国民生活は苦しくなります。このため「悪いインフレ」とも呼ばれます。また、スタグフレーションと呼ばれることもあります。スタグフレーションは、景気停滞を意味する「スタグネーション」と「インフレーション」を組み合わせた造語です。

インフレ率2%が目指される理由

日本銀行や、アメリカの中央銀行であるFRBなど各国の中央銀行は、2%のインフレ率の達成を政策目標としています。

どうして各国の中央銀行は2%のインフレを目指しているのでしょうか。

それを知るために、まずは、インフレの逆のデフレが、いかに問題であるかをみていきましょう。

インフレが発生すると、将来の10万円は、今の10万円ほどの価値がなくなり、逆にデフレになると、将来の10万円は今の10万円より価値が大きくなります。よって、今10万円を借りて、将来同額の10万円を返すとすると、将来の負担は、インフレのときは10万円の価値が小さくなているので、小さくなり、デフレの時は逆に10万円の価値が大きくなっているので、大きくなります。

言い換えると、デフレは債務者に不利に、債権者に有利に働きます。通常企業はお金を借り入れて事業を行なっているので、デフレは企業の活動を抑制する効果があるといえます。

また、債権者に有利ということは、現金や預金を持っていることが有利となるので、消費者は消費を減らして預貯金を増やす行動に出るでしょう。

このように、企業が投資をせず、消費者が消費を減らすので、デフレのもとでは、モノが売れない活気のない社会となります。さらに、モノが売れなければ、企業はさらに生産を減らし、投資を抑制し、賃金を抑えるでしょうし、賃金が減れば消費も減る、という悪循環が続くことになります。

このような事態に陥った典型例が日本経済です。

グラフは1989年以降の消費者物価の推移です。消費税率の引き上げやリーマン・ショック前後の経済の混乱の時期を除けば、日本経済は1995年ころから2013年ころにかけて、一貫して、緩いデフレの状況にあったことがわかります。いわゆる「アベノミクス」での大規模金融緩和によってデフレ脱却に向かいましたが、コロナ・ショックにより、再び物価は下落傾向で推移しています。

このグラフに日経平均株価の推移を重ねてみますと、デフレの時代、株価はずっと低迷していたことがみてとれます。この時期、デフレが不景気を呼び、不景気がデフレを生む悪循環に日本経済は陥っていたのです。

このようにデフレは、低率であっても、問題があります。一方でインフレは、低率であれば問題がほとんどありません。そのため各国の中央銀行は、平常時の物価上昇率を2%近辺にすることで、景気悪化などにより物価が一時的に下がっても、マイナスとはならないような「のりしろ」を確保しておく、という考え方を採っているのです。

それから、プラスの物価上昇率を維持しておけば、景気が悪化した時に、金利を引き下げる余地を確保でき、金融政策の対応力が高まる、という考え方もあります。

景気に対して中立的な金利水準は、経済が持つ潜在的な成長率と物価上昇率の和となります。潜在成長率が1%で、平常時の物価上昇率がゼロの場合、すぐに金利を引き下げる余地がなくなってしまいます。しかし平常時の物価上昇率が2%ならば、景気悪化時の金利引き下げ余地が確保されます。


日銀の必殺技「量的緩和」って?

中央銀行は、通常、金利を操作することで、物価目標の達成を目指します。例えばインフレ率が低すぎる時に、中央銀行が市中金利を引き下げると、企業が投資を増やし、その結果、総需要曲線が右に動いて、物価水準が上がる、という流れです。しかし経済がデフレ状態に陥っており、既に金利水準がゼロにまで下がっているときは、金利を引き下げて物価を調整するということができません。そこで中央銀行は、金利ではなく、市中に出回るお金の量を調整することを目指します。市中に出回るお金の量が増えれば、お金の価値が下がりモノの価値が上がる、つまりは物価が上昇する、という考え方です。

具体的には、中央銀行が金融機関などが保有する国債などを買い取って、各金融機関が中央銀行に保有している預金口座の残高を増やすという形をとります。

これは、「量的金融緩和」と呼ばれる金融政策で、デフレに苦しむ日本が先進国では初めて2001年3月に導入しました。その後2006年3月に解除されますが、日銀総裁が今の黒田総裁に代わると、2013年4月より大規模な量的緩和が開始され、現在に至っています。また、欧米各国も、リーマンショック後に導入し、新型コロナ感染症流行下でも実施されています。

市中のお金の量を直接操作しようとする量的緩和は、中央銀行の必殺技とも言えるのですが、その効果はどの程度あるのでしょうか。

先ほどみた消費者物価の推移のグラフで見てみると、量的緩和が実施された期間には物価が押し上げられているように見え、確かに一定の効果はあると言ってもよさそうです。とはいえ、目標の物価上昇率2%には達していないので、量的緩和も万能とは言えないようです。

このグラフをよく見ると、量的緩和によって株価が大きく押し上げられていることがわかります。特にコロナ・ショックの時期では、物価はデフレ傾向にあるのに株価は高騰するという、物価と株価が逆の動きをしています。

このため、量的緩和は、物価の押し上げ効果は限定的で、資産バブルを引き起こすだけ、との見方もあります。


コロナショック後のインフレと株価

グラフは、最近2年間の、アメリカのマネタリーベース、つまり紙幣やコインと金融機関の中央銀行当座預金残高の合計の推移です。コロナショック発生後、中央銀行であるFRBはマネタリーベースを、前年同期比で50%以上も増加させました。

下のグラフは、民間に流通している現金の量であるM1の推移です。個人向けの給付金の効果もあってM1は急増し、前年同期比で約4.5倍にもなりました。

では、物価はどうなったかというと、2020年5月頃を底にして、その後回復していきました。ただ、なかなか前年比2%には達しず、2021年の年初まで、前年比1%強の水準が続きました。

その間の株価の推移を見てみると、こちらは大きく伸びています。特にハイテク企業が多いNASDAQ市場の指数は、2020年8月には前年比1.5倍に迫り、2021年3月には前年比で70%も上昇しました。

このことより、通貨供給量の急増は、物価の押し上げ効果は限定的だとしても、資産価格は大きく引き上げる、と言うことができるでしょう。

ただ、ここにきて、物価が急に上がり出していることが注目されています。消費者物価の前年比は、8ヶ月にわたって1%台だったのに、2021年3月に2.6%増と2%を超え、翌4月には4.2%増となりました。

これは、ワクチン接種が一気に進んだことや、3回目の現金給付金が支給されたことなどによると見られ、一時的な上昇とも考えられますが、このまま2%を超えるような物価上昇が続くのならば、FRBは量的緩和の縮小に動くことになります。

量的緩和が縮小されれば、これまでその恩恵に預かって上昇してきた株価は調整を余儀なくされ、中でも上昇率が大きかったNASDAQ上場株は大きく下げるかもしれません。そのため、このところ株式市場は、神経質な展開が続いています。

最後に、日本の状況を見ておきましょう。

グラフは日本のマネタリーベースとM1の推移です。

日本でも、コロナショック発生後、マネタリーベースが増加しましたが、前年比で一気に50%以上も増やしたアメリカに比べれば、かなり緩やかな伸びとなりました。

その傾向は、M1では一層顕著であり、M1はアメリカではわずかの間に数倍に膨らみましたが、日本では、マネタリーベースの伸びをも下回る、15%程度の伸びにとどまりました。

下のグラフは、消費者物価の伸びを示したもので、コロナショック発生後、物価上昇率はマイナスに落ち込み、未だにデフレ状態から抜け出せていないことがわかります。

アメリカが2%の物価上昇を回復した一方で、日本がデフレ状態から抜けられないのは、日銀のマネタリーベースの拡大が、FRBほど積極的ではなかったことが理由のひとつと言っていいでしょう。また、アメリカでは、3度にわたって給付金が支給されるなど、大胆な施策が実施されたのに対し、日本では、全国民向けの給付金が1回で打ち止めになったことなど、アメリカに比べると財政政策も不十分で、日本のM1の伸びがアメリカを大きく下回ったことも理由と考えられます。


Some clues...

省略(動画本編でご覧ください)


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Warning: include_once() [function.include]: Failed opening '../../../data/footer5.inc' for inclusion (include_path='.:/usr/local/php/5.2/lib/php') in /home/osono/www/pub/semicon.php on line 233