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『カレンシー・レボリューション』立ち読み 第1501〜1560段落

本ページで『カレンシー・レボリューション』 第1501〜1560段落を立ち読みいただくことができます。

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全文は
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 子文が答えた。

「大きな事件があれば改革を実行するといいましたが、事件があれば追いつめられてそうせざるを得なくなるという面がある一方で、事件を利用して改革を実行に移すという面もあります。大きな事件があれば、『金融・経済状況が危機に陥るのを回避するために、やむをえず改革を実施した。事前に相談する余裕はなかった』といって支援検討の継続を願っても厚かましいということはないでしょう」

 エドマンドがうなずいて、

「なるほど。僕は賛同するよ。もしなんらかの事故があれば即座にカレンシー・リフォームを実行するのがいいだろう」

「ただし、リスクも小さくないので事前に蒋介石委員長には諮っておく必要がある」と子文はいって、孔祥煕に向かって「義兄さん、明日南京にいかれたら、さっそく委員長に『なにか大事件が発生したならば改革を実行したいがどうか』と相談してみていただけますか」といった。孔祥煕は明後日開幕する国民党第四期中央執行委員会第六回大会出席のため、明日南京にはいる。

 孔祥煕は、

「わかった」

とうなずいた。ロジャースが、

「まあ、中途半端な状態で改革を実行させるという日本の策のとおりになるようで、多少おもしろくはないが」

というと、エドマンドは、

「気にすることはない。中途半端な状態で実行しても、成功すればいいのだよ。そうすれば、日本の策のおかげでカレンシー・リフォームを実行することができた、ということができる」

と笑った。

「ただ、この話で重要なのはイギリス系銀行の銀供出。これがカレンシー・リフォームの成否を決定する。そういってもいいでしょう」

と、子文は水をさすようにいって、リース=ロスの目をみた。

 翌十月三十一日。南京の軍事委員会。

 蒋介石は、会議用テーブルをはさんで陳立夫※と額を突き合わせている。

 陳立夫は軍事委員会調査統計局の局長である。調査統計局は共産党の活動の監視等を担う特務機関だが、蒋介石の私兵としての性格が強く、反蒋の動きに対する監視をも重要な任務としている。

全文は
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 陳立夫が低い声でいった。

「王亜樵に対する援助が打ち切られるのは、どうやら確実なようです」

 陳立夫の調査により、暗殺大王の異名をとる王亜樵が燕克治らをつかって蒋介石暗殺をめざし、そのための資金援助を李済深(リージーシェン)、馬超俊(マーチャオジュン)、陳銘枢(チェンミンシュー)等より得ていることが判明している。李済深、馬超俊、陳銘枢はいずれも国民党の大物で、蒋介石の強権的なやりかたや安内(国内を平定すること、すなわち共産党討伐)を攘外(国外の敵を追い払うこと、すなわち抗日戦争)に優先させる方針に不満をもつ反蒋介石派の中心的人物である。

「それは最近にない、いい情報だな」

「そもそも王亜樵は李済深らに五年以内にことをなすと約束していたようです。彼らの最初の暗殺の試みが廬山での襲撃で、その直前にその約束がなされたとすれば、まもなく五年が経ちます」

 王亜樵は燕克治に命じて一九三一年六月に廬山で静養中の蒋介石を襲撃したが失敗している。その直後の同年七月には、蒋介石の資金源を断つという観点から当時財政部長の宋子文暗殺を試みている。

「そうか。街を歩きまわるのは無理でも、南昌(ナンチャン)と南京を往復するだけの生活からは開放されるか」

 蒋介石は軍の拠点である南昌か、南昌から車で近い廬山で近衛兵に厳重に護られて生活しており、重要会議などのたびに飛行機に乗り首都南京に短く滞在する。

「本年じゅうは、いままで以上に注意していただく必要があります。奴らは約束の期限までに遂行しようと焦っていることでしょう。これから数か月間は極力行動予定を秘密にしていただきます。どうしても必要な場合を除き、大衆の前にでることは避けていただかなければなりません」

「おいおい、明日は六中全会だぞ」

 六中全会、すなわち国民党第四期中央執行委員会第六回大会は十一月一日に開催される。

「そうです。六中全会は危ない。なかでも多数の新聞記者が委員長のそばに寄ることができるときが非常に危険です」

「つまり、開会式の前後か」

「そうです。開会式前の朝七時に中央執行委員全員で中山陵(ちゅうざんりょう)(南京市東部の丘陵、紫金山に位置する孫文の陵墓)に参詣する予定ですが、そのときに記者がついてきます。そして九時から開会式がおこなわれ汪行政院長が演説し、そのあとに記念撮影がおこなわれます。このときがもっとも危険です。中山陵参詣では記者は遠巻きにしかできませんが、写真撮影では委員長のかなり近くに寄ることができます。記者に刺客が紛れていれば、刺客は動かない標的を十歩ほどの距離から撃つことができます」

「私を狙っているのなら、その機会を逃すとは思えないな」

「はい。五年の期限が迫っているいま、彼らがそこで襲ってくることは間違いないといえるでしょう。警備は極めて厳重におこなう予定ですが、それでも警備の隙が生じる恐れがあります。記者を近づけないことが最善です。記者の開会式会場への入場を禁じたいと思うのですが、よろしいでしょうか」

 蒋介石は答えず、顎をさすり考え始めた。

 すぐに承諾を得られると思っていた陳立夫は虚をつかれたような表情で、

「なにか問題がありますでしょうか」

と訊いた。蒋介石は、「うぅむ──」と小さく唸り、

全文は
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「奴らはどうしても数ヶ月以内に実行せねばならないのだろう。記念撮影での襲撃の機会を奪っても奴らはほかの機会を探すだけではないか。早朝に中山陵で襲撃することに計画を変更するのではないか」

「では、記念撮影の場への入場禁止を前もって知らせず、直前ぎりぎりに発表することにすればどうでしょう。入場できないと知ったときにはすでに中山陵参詣は終わっています」

「そうだな──」と、蒋介石はまだ顎をさすりながら考えている。「襲ってくる場所と時間がわかっているなんて、そうあることではない。その機会をむだにするようで惜しいような気もするが──」

 蒋介石は天井を見上げて考え始めた。

 陳立夫は黙って蒋介石の次のことばを待っている。

 そこへ秘書がはいってきて来訪者の到着を告げた。

 孔祥煕がヤングとその通訳を伴い部屋にはいってきた。

 陳立夫は自分の座っていた席を孔祥煕に譲り、大きな会議テーブルをはさんで向かい側の蒋介石のとなりの席に移った。ヤングは小さく会釈をしただけで孔祥煕の横に座った。ヤングは過去にも数度孔祥煕に連れられこの部屋にきており、蒋介石もヤングを一瞥しただけで、むだな挨拶を求めなかった。

 疲れた顔の孔祥煕が席に座るなりいった。

「どうにも難しい状況になってきましたので、委員長にご相談したいと思いまして」

「なんです、義兄さん。難しい状況とは」

 孔祥煕は宋美齢の姉、宋靄齢の夫であり、すなわち蒋介石にとって義兄にあたる。年齢も孔祥煕のほうが七歳うえで、蒋介石は孔祥煕に対し、心のなかでは遥かに低くみていても、ことばに年長者に対する敬意を示さねばならない。

「元と銀の下落がとまらないのです。対ポンドの匯率(フイリー)(為替レート)は、半年前には一元二十ペンス台、先月には一元十八ペンス台だったのが、いまや一元十四ペンスを切ろうとしています」

「銀が下落?義兄さんはずっと銀価格の上昇が大変だ、大変だといっていたじゃないですか。それが下がったのなら大いに結構な話ではないですか」

「価格が上昇して困っていたのは銀の国際価格です。いま急落しているのは元と国内の銀価格です。数週間で二十%以上の下落です。下落の速度があまりに早く、金融市場は大混乱です。債券価格も急落し、銀行や両替商がつぶれるとの噂が飛び交っています。それに、匯率の下落は、それが極端に過ぎると経済に弊害をおよぼします」

孔祥煕はそういってヤングをみて、話の続きをするよう促した。

「一般的にいえば、ある国の通貨の下落は、その国の輸出が増えることなどを通じて経済にいい影響を与えます。しかし一方で、国民は国外の生産物を購入するのにより多くを払わなくてはならなくなりますし、通貨の下落速度があまりに速いと、国外の生産物を仕入れている企業などは苦境に立たされることになります。それに、中国は国外からローンを得ていますが、元が下落すれば元で計算した返済額が大きくなり、すなわち債務の返済負担が重くなります」

 蒋介石は乏しい表情で聞いている。経済の問題など、共産党や日本との戦いに比べれば、所詮些事だと思っているのだ。そこでヤングは続けて、

「沿海部の都市では銀通貨が流通していますが、内陸部では銅通貨が流通しているというこの国の特殊事情のことも考えなくてはなりません。国のなかに国境があるようなものであり、銀が銅に比べて安くなれば、内陸部の物資が割高となり、内陸部から沿海部への販売が悪化します。つまり、銀価格が下落すれば農村部の経済が疲弊します。農村部の国民政府に対する不満がつのり、この機に乗じて共産党が一層勢力を広げる恐れがあります」

 顔を伏せぎみに聞いていた蒋介石が顎を上げた。共産党が勢力を広げるということばに反応したのだ。

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