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『カレンシー・レボリューション』立ち読み 第61〜120段落

本ページで『カレンシー・レボリューション』 第61〜120段落を立ち読みいただくことができます。

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 ふたりのうちの背の高いほうが拳銃を構えている。ふたりとも軍服とみまがう制服を着てはいるが軍人ではないはずだ。ここ山海関の南側は塘沽協定注により設定された非武装地帯内なのだ。警察官か、もしくは税関官吏だろう。

「ここでなにをしている」

と、背の低い男が尋問口調で訊いた。

「取材ですよ。銀密輸が横行しているというので、その取材に」

と、柳場が答える。

「記者か?」

 柳場は振り返り、うしろに立っている小島に「記者証を」といった。

 小島は記者証を背の低い男に手渡した。

 男は懐中電灯の灯りをあてて記者証をじっくりとみた。

 背の高い男が、「おまえの記者証は」といって、拳銃の先を小さく横に振って促した。小島は、どう答えるのだろうと思い、柳場の横顔をみた。

 柳場は表情を変えずにゆっくりと懐に手を入れた。そこには拳銃を忍ばせていることを小島は知っている。

 長身の男が半歩さがり、拳銃を柳場の胸に向けた。

 柳場は小さく笑って、懐に入れた手をゆっくりと動かした。

 懐からでてきたのはパスポートだった。

 柳場はそれを背の低い男にさしだし、小島の記者証と引き換えに手渡した。

 背の低い男が「記者ではないじゃないか」というと、長身がパスポートを覗きこんだ。

「私は外交官です」

と 柳場が軽い声でいった。小島も小柄の男がもつ柳場のパスポートをみると、確かに外交旅券のようである。柳場が続けて、

「この小島先生が銀密貿易の取材をするというので、頼んでいっしょに連れてきてもらったのです。私はもともと日本の大蔵省の人間です。わが国から国民政府に財政顧問を派遣することになり、私はその財政顧問室の開設準備のために外務省に出向し、こちらにきました」

「財政顧問室?そのようなものができるなどという話は聞いたことがないぞ」

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「おや?知らないのですか。わが国の広田外務大臣が日華親善に積極的であることはご存知ですよね。広田大臣は金融面でも交流を深めるという方針で、津田順一という大蔵省の次官が派遣されることになりました」

と、柳場は流暢な北京語でいった。普段口数の少ない男にはにあわず多弁である。

「なにをしに山海関にきた」

「銀密輸には残念ながらわが国の者が多く携わっているようであり、金融面での援助の手始めとして、銀密輸問題解決に協力することになったのです。そこでまずは実態を調査するためにここへやってきました」

 長身の男は拳銃をもった手を下げたが、しばらく考えてから、

「疑うわけではないが、もう少し話を聞かせてもらわなくてはならない。いっしょにきてくれ」

 柳場がかすかに舌打ちした。小島はひやりとしたが、ふたりの男には聞こえなかったのだろう、表情を変えなかった。

「外交官を拘束するのはやめたほうがいい。面倒なことになりますよ」

「拘束するわけではない。話を聞くだけだ」

「面倒は避けるべきだと思うのですがね。お互いに」柳場はそういって、こんどはふたりにも聞こえる大きなため息をついた。「われわれとしても面倒は避けたい。貴重な調査と取材の時間をむだにするのはもったいない。そこで──」

 柳場は先とは逆の懐に手を突っこんだ。それをみて、男が再び拳銃の先を柳場に向けた。

 柳場は真顔になったが、一瞬ののちに口の端だけを歪めて笑った。

 柳場の懐からでてきたのは小さな布袋だった。袋を揺するとジャラジャラと音がした。中身は銀貨だろう。

(おいおい、結局はカネかよ)

と、小島は頭のなかでつぶやいた。

 ふたりの官憲は一瞬顔をみあわせ目で語ったあと、背の低いほうの男が手をのばした。

 その手のうえに柳場が布袋を置くと、背の低い男は重さをはかるように一回ガシャリと揺すり、

「それもそうだな。取材と調査のじゃまをしたのでは申し訳ない」

といって、笑った。

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 小島と柳場は車に戻った。

 車には誰も乗っていなかった。範策が銀を持ち逃げしたのではないかとも思ったが、長城を越え損ねたトランクが五個、みな後部座席に残っている。

「範策は?」

「あのふたりがわれわれと別れたあとにどうしたか、確認しているのだろう。しばらくここで待っていれば戻ってくるさ」

 小島は後部座席をみて、

「しかし、どうするんだい。このトランクの山を。上海にもって帰るのも一苦労だ」

 柳場は笑って、

「もって帰るわけがないじゃないか。一時間もしたらさっきの場所に戻るよ」

「本気か?せめて日をあらためたほうがいいんじゃないか」

「だいじょうぶだよ。何重にも対策は考えてあるし」

「対策?ひょっとして賄賂のことか」小島は苦笑し、「渡す分が小袋に詰めてあったのはずいぶんと用意のいいことだとは思ったが、そういうのを対策というのかね。『何重にも』というと、ほかにはどんな対策があるのかい」

「記者証とか」

「なに?記者証のくだりも対策のひとつだったというのか。じゃあ、僕はきみに頼んで連れてきてもらったつもりでいたが、きみのほうが僕を利用しているということか」小島は、やれやれ、と首を振り、「ということは、きみの偽造パスポートも対策のひとつというわけだ。ずいぶんと細かい説明をしていたが、うそも詳しければ本当っぽい」

「いやいや、まんざらうそでもないよ。津田さんが国民政府の財政顧問として派遣される話があり、オレはその準備のためにひとあし先にこちらに渡った。そのあたりはほんとうだ。まあ、その財政顧問室の話は四年前のことで、満洲事変勃発で流れてしまったけどね。だから、パスポートは偽造というわけではないのだよ。もちろんオレはほかのパスポートをもっているけど、外交旅券を返還しなかったのだ」

 小島はフロント・グラスから射しこむ月明りで青く光る柳場の頬に向かい、驚きの声でいった。

「なんときみは、そういう経歴だったのか。どうりで国際経済や金融事情に詳しいはずだ」

「話していなかったっけ」と、柳場はとぼけていって、「そっちこそ、記者としては変わった経歴だと聞いたが」

「変わった経歴?そうかな」

と、小島もとぼけていった。

「ハーバードで経済学を学んだと人から聞いたが、それはいつのことだい」

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