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『ステーツマン』立ち読み 第241〜300段落

本ページで『ステーツマン』 第241〜300段落を立ち読みいただくことができます。

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 しかし、ふたりは群衆に囲まれた。

 人々はふたりを指さし、怒鳴り声で小島には理解できないことばを浴びせてくる。

 ふたりは演台から離れる方向へ歩き始めたが、群衆は道を開けようとしない。

 ふたりを囲む輪が徐々に縮まってきた。

 前を遮る者を押し退けて進むしかない。小島はそう思い、「走るぞ」と、子文に声を掛けたとき、ふたりの男が小島にぶつかってきた。

 小島は反射的に身を翻してひとりをかわし、次にきた男を払腰で投げた。

 これが群衆を激高させた。

 さらに数人を投げ飛ばしたが多勢に無勢である。

 小島は子文の頭をうえから押して屈ませ、そのうえから覆いかぶさった。

 小島の背中は無数の足で踏みつけられた。 分厚いコートのおかげで痛みはさほどでもないが、いつ終わるともわからない、このまま殺されるかもしれないという恐怖が襲う。腹部を横から蹴られ、首を踏まれ、後頭部を打たれた。苦痛と恐怖で、小島の意識は次第に遠のいていった。

 一発の銃声が響いた。

 小島を蹴る足が止まった。

 小島はそのまましばらく子文に覆いかぶさったままでいたが、肩を軽く叩かれ、顔をうえに向けた。

 国民革命軍の兵士だった。

 ふたりは兵士に両脇を支えられて群衆の輪を離れた。

「TV。怪我はないか」

「きみのおかげでどうやら無事だ。きみはどうだ」

「怪我があるのかどうか、あるとしてもそれがどこかわからないほどに身体じゅうが痛む」

 小島はそういいながら小さく笑ってみせた。

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 蒋介石は九江の埠頭に立って長江の川面をゆっくりと進む船をみている。

 待っているのは中型の外輪式の蒸気船だ。船が上流から近づいてきて姿が次第に大きくなり、求める型と違うものであることが判明するたびに蒋介石は「はあ」だの「ふう」だのため息をついた。

 この場で待ち始めてからかれこれ一時間になる。よく晴れた午後だが、長江上に出張った船着き場のうえであり、真冬の川風が頬に痛い。

 うしろに銃剣を手にして並ぶ親衛兵は微動だにしないが、傍らに立つ秘書の陳立夫※は、耳に手を当て背中を丸め、蒋介石のため息が聞こえるたびに調子をあわせるように吐息をもらした。

 蒋介石は宋美齢の乗った船の到着を待っている。

 武漢の党左派との対立に頭を悩ませる日々だが、数日前に美齢から電報を受け取ってからは、武漢政府からの自分を糾弾する電報をみても笑っていられるようになった。

 美齢の電報には

〈大兄のところへ遊びにいきます。武漢から靄齢姉さんの船でいきますので、お迎えにいらしてください。お会いできるのをとても楽しみにしています〉

とあった。その電報は胸のポケットに入れてある。それがあると、寒い日でも胸がぽかぽかとあたたかく感じられるのだった。

 美齢に初めてあったのは五年前、上海の孫文の家で開かれたパーティーでだった。

 初めてみた美齢は噂に違わぬ魅力ある女性だった。陽気で、話題が豊富で、巧みなユーモアでひとを笑わせる聡明さもあった。孫文や兄の宋子文とときおり英語を交えて会話をする姿を眩しく思った。明るい衣装を身にまとった美齢は、まさしくパーティーの中心に咲く花だった。

 その日から美齢のことが頭から離れなくなった。日に何度も彼女のことを想うようになった。

 孫文に美齢と交際できないものかと相談したところ、数日後に返ってきた返事は「待て」であった。どうやら孫文の妻の慶齢が猛烈に反対したようだ。姉の反対があったためか、しばらく美齢の態度はつれないものだった。しかし黄埔軍官学校の校長に就任したころから美齢の態度に変化が現れた。パーティーで会うと、すぐに蒋介石のところに寄ってきて、英雄をみるように瞳を輝かせ話を聞きたがるようになった。

 いまでは頻繁に手紙を交換する仲だ。美齢は昨年末から母親と姉の靄齢とともに武漢にきている。年初に会議に出席するために武漢にいったが、交際に強く反対している慶齢の手前もあって美齢とことばを交わすことができなかった。そのときはなんともいえぬ寂しさがあったが、今日こうしてわざわざ九江まで会いにくるということは、美齢もおそらく同じ気持ちなのだろう。

 また一隻の蒸気船が目の前を通り過ぎていった。

 蒋介石は大きくため息をつき、横にいる陳立夫も、一瞬遅れて小さい吐息をもらした。

「迎えの船をだすべきだったんじゃないのか」

 蒋介石は陳立夫に叱るようにいい、陳立夫は首をすくめて頭を片手で隠した。どつかれることに慣れた陳立夫は蒋介石の甲高い声を聞くと自然に防御の姿勢になるのだ。

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 その動作が気にくわなかったのか、蒋介石は陳立夫の横腹を拳で突いた。

 陳立夫は片手で腹をおさえ、片手で上流を指さして、いった。

「あっ。また蒸気船がきましたよ。ご覧ください」

 いわれた方へ視線を向けた蒋介石の頬が少しずつ緩んでいった。蒸気船が近づいてくるにつれ、デッキにひとが立っていることがわかり、それが女性であることがわかり、風にはためくスカートの柄がグレン・チェックであることがわかった。

「来了(ライラ)。来了来了!」

 蒋介石は陳立夫の背中を叩きながらいった。

 ところが蒋介石の表情はすぐに険しくなった。

「違うじゃないか。あ、あ、あれは……」

 蒋介石は首を項垂れた。

「あれっ。本当だ。違いますね」陳立夫が目を凝らす。「あれは、お姉さんですね」

 デッキのうえの女性は三女美齢ではなく、長女の靄齢だった。蒋介石がつぶやいた。

「次女は傾国、三女は傾城。同じ親からなぜあの長女が生まれ得るのだ」

「傾城、ですか……」

 陳立夫は、フフッと小さく笑った。

「なにがおかしい」

「あっ。いえ、別に」

 陳立夫は顔の前で手をすばやく横に振った。

「おかしなやつだ」

「もし美齢小姐(シャオジエ)が傾城だとおっしゃるのなら、おつきあいはお考えになられた方がよいのではありませんか。南昌の城を傾けられでもしたら大変です。まあ、次女はまさに傾国ですが、三女が傾城というのはどうかとも……」

 陳立夫がそこまでいったとき、蒋介石の鉄拳が動き、陳立夫の防御よりも一瞬早く彼の頭を強烈にどついた。

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