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『上海ノース・ステーション』立ち読み

本ページで『上海ノース・ステーション』の一部を立ち読みいただくことができます。

全文は電子書籍(Kindle版)または単行本でお読みいただけます。電子書籍は下記のリンクからアマゾンにてご購入ください(Kindle unlimitedで無料で読むこともできます)。

単行本については、本作は『小説集カレンシー・レボリューション』に収録されていますので、下記のリンクよりアマゾンにてお求めください(『小説集カレンシー・レボリューション』には関連した長編小説1本、中編小説1本と合わせて合計3本の作品が収録されています)。

全文は
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「きみほどの名テニス・プレーヤーであっても銃弾をレシーブすることはできまい」

「サービスを打たせないようにします」

「きみの好意には感謝するよ。少しは気をつけることとしよう。ただ、ここまで無事に歩いてこられたのだから今夜この駅で襲撃されることはもはやないだろうし、列車に乗りこんだらコンパートメントからはでないようにするから、少なくとも上海に着くまではだいじょうぶだ」

 重光はそういって小島の右肩をポンと叩いた。

「わかりました。では明朝、上海駅に着く直前に参ります」

 小島は軽く頭を下げた。重光は片手を挙げてそれに応えて車内にはいっていった。

 重光が乗るのは最後尾の特別車両であり、小島はそのひとつ前の車両に乗る。

 小島は車内の蒸し暑さを嫌い、そのままプラットホームに立ってタバコに火を点けた。

 出発時刻を過ぎた。混みあっていたプラットホームのうえの人影がまばらになった。小島は出発の合図とともに列車に乗りこもうとしているのだが、まだその気配がみられない。

 しばらくすると十人程度の集団が近づいてきた。集団の中央に白い上下の服を着た男がふたり歩いている。ひとりは背が高く体格がしっかりとしており、もうひとりは小柄である。そのふたりとは対照的に黒の上下に身を包んだ男たちがふたりの周りを取り囲んでいる。

 プラットホームに立ち籠める靄のせいで顔がよくみえなかったが、やがて中央の背の高い男が宋子文であることに気づいた。

 小島が手を挙げて「ヨオ」と声を掛けると、左右をかためていた黒服の男たちが前にでてきて小島と子文とのあいだに立ちはだかった。

 黒服の男たちを押し分けて前にでた子文は小島に向かって歩きながらにこやかにいった。

「ジョージじゃないか。きみもこの列車で上海に戻るのかい」

「なんだ。列車がなかなか出発しないのはきみ待ちだったのか」

「申し訳ない。警備上の都合でね。毎度毎度出発を遅らせるというのもどうかとは思うのだが、この連中は慎重でね」

 子文は半身になって後方に立つ黒服の男たちを指さした。

「きみの遅刻が原因で出発を遅らせたのならば断固として抗議しなくてはならないが、警備上の理由ならしょうがないか。まあ、爆発物(エクスプローシブ)は、万が一に暴発したときに一般客を巻きこまないよう、誰もいないときに積みこんだほうがいいだろうからな」

 むろん小島は冗談でいったのだが、自分のことばにハッとした。燕克治は蒋介石ではない新たな対象を狙っているといっていた。まさかそれが子文ということはあるだろうか。

「TV。きみが南京から上海へ帰るのは通常木曜か金曜だろう。なにか急ぎ上海に帰らねばならない理由でもできたのかい」

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「今日、青島にいる母が危篤だという電報を受け取った。上海で急ぎやらねばならない仕事を明日片づけて、そのあとすぐに青島にいくつもりなんだ」

「そうか……それは……」

 母親が危篤という話を聞いて、どうことばを掛ければいいかすぐには思いつかなかった。

 小島が返すことばを探していると、子文が傍らに立つ白い服の男の肩を叩いていった。

「僕の秘書の唐腴臚(タンユールー)だ」

「結婚披露宴で会ったよ」

「ああ、そうだったな。すまん、すまん」

 小島は唐腴臚に向かっていった。

「結婚早々なのに出張ですか。人使いの荒い上司で大変ですね」

 子文が答えた。

「彼は洪水対策で結婚披露宴の翌日からずっと財政部に泊まりこんでいる。でも僕が強要しているわけではないぞ。今日も出張には同行しなくてもいいといったんだがね」

 唐腴臚はにこりと笑っていった。

「僕が出張にお供させていただきたいとお願いしたのですよ。国家が大災害に見舞われているときに休んでなどいられませんからね」

 小島は唐腴臚の爽やかな笑顔に好感をもった。

 先頭の機関車が、乗車を促すかのように長い汽笛を鳴らした。

「部長。そろそろお乗りください。乗客をさらに待たせることになってしまいます」

 唐腴臚はそういって列車の後方を手で示した。小島と子文は並んで列車の最後部に向かって歩き始めた。ふたりのうしろから唐腴臚と六人の衛士がついてくる。

 歩きながら小島は子文にいった。

「護衛が六人か。彼にもきみたちの心がけを見習ってもらいたいものだ」

「彼?」

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「代理公使だよ。きみとは違って書記官ふたりだけを連れてプラットホームの人混みのなかを抜けてきた」

「ああ。彼もこの列車に乗るんだね。彼とはしばしばこの上海行きの夜行列車で一緒になるんだけどね、そのたびに『佐分利公使のこともあるからもう少し護衛の人数を増やすなど警戒したほうがいい』というんだが、相変わらずということか」

 一行は最後尾のドアから列車に乗りこんだ。

 再び長い汽笛が聞こえて、南京発上海行き夜行列車がゆっくりと動き始めた。

 予定時刻を十五分過ぎての発車であった。

七月二十三日未明(暗殺事件二時間前) 昆山

 列車が停車する瞬間に連結器の遊びが連鎖してつくりだす爆音のような音で小島は目を覚ました。

 あたりは真っ暗である。

 小島は再びまぶたを閉じた。

 そのままずいぶんと時間が過ぎたが汽車はなかなか出発しない。

(なにかあったのか?)

 小島はふとそう思い目を開け、コンパートメントから通路にでた。

 しかし異常はなにもなかった。

 通路には誰もいない。窓からそとをみると、プラットホーム上の駅名標には〝昆山〟の文字があった。上海まではまだ二時間程度かかるだろう。

 プラットホームにこの車両の車掌が立っているのがみえた。小島は窓を開け頭をそとにだして車掌に訊いた。

「なにかあったのかい」

「機関車の故障のようです。詳しいことはわかりませんが」

「上海到着は遅れるのか」

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