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『上海ノース・ステーション』立ち読み

本ページで『上海ノース・ステーション』の一部を立ち読みいただくことができます。

全文は電子書籍(Kindle版)または単行本でお読みいただけます。電子書籍は下記のリンクからアマゾンにてご購入ください(Kindle unlimitedで無料で読むこともできます)。

単行本については、本作は『小説集カレンシー・レボリューション』に収録されていますので、下記のリンクよりアマゾンにてお求めください(『小説集カレンシー・レボリューション』には関連した長編小説1本、中編小説1本と合わせて合計3本の作品が収録されています)。

全文は
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「もう二十分以上も止まっていますし、どうやらまだ当分動けそうにないですからね。でも、どのくらいの遅れになるかはなんともいえません」

 小島は頭を車内に戻してタバコに火を点け、この故障と重光暗殺計画とのあいだになにか関係があるのだろうか、と考えてみた。

(まあ、無関係だろうな)

 もしこれが暗殺者により仕掛けられた故障であるならば、二十分も止まっている間に襲撃されていそうなものである。

 この遅れはむしろ幸いというべきだろう。もし重光を襲おうとしているものがこの先のどこかで待ち伏せているのであれば、この遅れによって彼らの計画に少なからず狂いが生じるはずだ。

(この遅れを利用してみるか)

と、小島はふと思いついて乗降口へ向かいプラットホームにでた。そして最後尾の特別車両の車掌を捕まえて、

「日本の代理公使だが、汽車の遅れに関係なく、いつもの時間に起こしてほしい」

と頼んだ。

 特別車両の車掌は通常、上海到着の三十分ほど前に、上海の西郊外の真如(ジェンルー)を通過するあたりで乗客を起こしてまわる。遅延しているこの列車で予定どおりに運行された場合の時間に起こすとなれば、真如よりもずいぶんと手前で起こすことになる。

 不審そうに小島の顔をみる車掌に対して、新聞記者の名刺を渡しながらいった。

「昨晩、代理公使がいっていたのだよ。朝にやらねばならない仕事がある、と。遅れる場合でも代理公使は時間どおりに起きて仕事をされたいのだ」

 車掌は名刺と小島の顔を交互にみながらいった。

「では少し早めにお声を掛けることにします」

「少しではなくて、今から一時間後くらいには起こしてくれ」

 小島に強い口調でそういわれ、車掌は姿勢を正して「イエス、サー」と答えた。

 一時間後、小島は重光のコンパートメントのドアをノックした。

 ドアを開けると、重光は不機嫌そうにコーヒーを飲んでいた。

「お目覚めでいらっしゃいましたか」

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「起こされたのだよ。上海までまだ一時間以上かかるようじゃないか。あと三十分は余計に寝られたのに。なぜそのなに早く起こされたのかわからん」

「車掌はなにかいっていませんでしたか」

「早く起こされたことに気がついたのは顔を洗ったあとだったのだよ。車掌をどやしてやりたいところだが、やつは私を起こしてから顔をみせていない」

 小島は「そうだったのですか」と同情の表情をみせてから「早く起きてしまわれたことだし、ご提案があるのですが」

「なんだね。暇つぶしになる提案なら聞くよ」

「やはり私は代理公使のお命が狙われているという噂が気になっているのですが、この際ですから上海北駅までいかずに手前でお降りになってはいかがでしょうか。あと三十分ほどで真如(ジェンルー)に着きますが、真如で降りて、そこからは車で市内に向かわれてはいかがでしょう」

「たとえ私を殺そうとしている者が存在するとしても、その実行が今日である可能性はほとんどないだろう。私はたいてい金曜か土曜の朝に上海に戻ってくる。今日は木曜だ。暗殺者が待っているとしたら明日の朝だろう」

「敵は毎日待ち伏せているかもしれません」

「しかしなぁ──」重光は煮え切れない。「上海北駅には迎えの車がきている。それを真如にまわさなければならないが、いまからでは連絡がつかない」

「真如の駅から上海北駅に電話をして、運転手に真如にまわるよう伝えてもらってはいかがでしょうか」

「それではずいぶんと時間がかかるだろう。市内に着くのは午後になってしまうではないか」

「正午前後くらいでしょうか」

「それでは困る。午前のうちには領事館にいきたい」

「しかしお命にかかわることです」

 重光はコーヒー・カップを口に運び一口飲んでから、

「やはり無理だな。きみの好意には感謝するが。やはりだめだ」

 小島はため息をついた。

「わかりました。では手前で降りていただくというのは諦めましょう。でも、お願いがあります。そちらのほうはぜひ聞き入れてください」

「なんだね」

「上海北駅で下車するとき、暗殺者がいることを想定して、いつもと同じ行動をとらないようにしてください」

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「いつもと同じ行動?」

「いつもこの最後尾の車両に乗っておられるのですよね。であるならば通常はこの車両の乗降口から下車されるのでしょうけれども、今日は他の車両から降りていただくとか」

「まあ、そのくらいは構わないが──」

「いつもはどのようなタイミングで下車されますか。列車が着いてすぐ降りるか、ゆっくり降りるか」

「いつもはゆっくりと支度をして、他の乗客がみな降りてプラットホームのうえの人間がほとんどいなくなってから降りる。この列車で宋子文と乗り合わせることがよくあるんだが、その場合はたいてい彼と連れ立って降り、話しながら出口に向かうな」

「TVとですか。じゃあ今日も彼と一緒に降りるおつもりですか」

「宋子文が乗っているのか」

「はい。昨夜、彼が乗るところをみかけ、少し話をしました」

「そうか。ならばちょうどいいじゃないか。彼には護衛がたくさんついているはずだ。一緒に歩いて、ついでに護ってもらおうじゃないか」

「いや。それはよくありません。いつもTVと連れ立って降りるのであれば、今日は違う行動をしてください」

 重光は首をひねって、

「どうもよくわからんな。きみはまるで私が今日襲われると確信しているかのようではないか」

「いや、確信しているわけではありませんが──」

 そうはいったが、嫌な予感がしているのは確かだ。蒋介石の暗殺者が訪ねてきて重光が暗殺される可能性があることを聞かされた。その重光は急な都合で昨夜発の夜行に乗ることになり、その夜行に、やはりいつもは乗らないはずの子文が乗っている。一連のことが全くの偶然であるとは思い難かった。

「宋子文と一緒に降りるなというということは、きみは私と宋子文が一緒に襲われることを想定しているということか」

「そう思っているわけではありませんが、彼は有名人です。顔が国じゅうに知れ渡っている。代理公使を狙う人間は代理公使の顔をよく知らないかもしれない。いつもTVと一緒に降りてくるということなら、それを目印にしてくるかもしれません」

「しかし私を狙う人間がいるとすればそれは対中強硬派の日本人だろう。宋子文を目印にして襲ってくるとは思えんが」

「中国人の殺し屋を雇うかもしれません」

 重光は首筋に手をあててほぐすように首を左右に振った。

「わかった、わかった。きみの熱意には負けた。どうせ早く起きてしまってやることもないのだ。到着の準備を下車の前に万端整えて、列車が停車すると同時に他の車両から下車することにするよ。それでいいな」

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