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レビューショー終了から何を学ぶか


●何を学ぶべきか

シーザースのレビューショー終了からは日本企業の中国進出の際の注意点として学んでおくべきところも少なくない。

(1)中方との連携をする中間管理職の重要性

休業前最終日のレビューショーが終了し、一部のファンが席を立つのを惜しんでいる時、ダンサー達は三々五々下りのエレベーターへと向かっていった。再開の日を定めぬ休業であるにもかかわらず店スタッフによる打ち上げのようなものはなかった。これを見てスタッフ間の関係の疎遠さを感じた。

しかし、以前はそうではなかった。店のスタッフたちのつながりは決して浅くなかった。この変化は、店をよくまとめていた日本人マネジャーが昨年末に退職したことに起因しているように思われる。彼は中国語も堪能で、ホステス、ダンサー、その他スタッフ、日本人投資家、中国人経営者いずれとも交流し、その不満としているところ、要求などをよく把握していた。彼の退職後はこれらの人々を結ぶものがなくなり、客の目からも関係がギクシャクしているのが感じられるようになった。

(2)コンセプトの明確化・ブランドイメージの確立

オープン当時は上海一の高級店として多くの客を集めることができたが、南京東路工事の期間に顧客呼び込みのために低価格路線をとったり、ホステスのサービス能力も低下してしまったことなどから、レビューショーを除けば他のカラオケ店とあまり変わらない店となってしまった。

レビューショーに関しても7人のダンサーではショーに迫力が欠け、上海のビジネスマンにとって、自信をもって日本からの客を喜ばせることができる店とは言えなくなっていた。他に大人数で迫力のあるショーを見せる店もできており、シーザースが唯一ではなくなっていた。

古くからいる駐在員にとっては「シーザース」の名は高級ナイトクラブを意味するが、ここ2年以内に赴任した人にとっては特別な意味のある単語ではなくなってしまった。ブランド力を失ってしまったのである。

(3)需給のヨミ

シーザースクラブは日本人向けを原則とした。ローカル及び欧米人顧客をほとんど意識しておらず、広告は日本人向けが中心で、英語を話すスタッフは私の知る限りいなかった。

しかし日本経済の不振を背景に1997年頃から上海に住む日本人数が減少し始めた。他方で日本人をターゲットにした夜の店のオープンが相次いだが、これは、日本にいてもいい職が見つかりにくくなったことなどから日本から帰国する上海人が増え、彼らが「自分でできること」として夜の店の開業を選択することが多くなったためであろう。需要減少と供給増加が同時に生じていたわけで多くの店が経営不振に陥ることになった。

他方で日本とは逆に好調が続くアメリカ経済を背景に欧米からの投資は堅調で、かつ欧米人向けの高級店は少ないことから、欧米人向けで内装がきれいな店はよく人が入っている。

思うに、この需給の変化に沿い欧米人をもターゲットとする店に転換すべきではなかったか。そうすれば店が客で埋まり、ダンサー達のやる気も出てくる。ショーのレベルは上がり、さらに顧客が増えるという好循環が生じていたかもしれない。

中国では一般に需給の変動が早く、それを読むことが極めて重要である。需要が超過しているマーケットがあると一気に参入が進み、しばらくすると供給過多でマーケット参加者が共倒れを起こす状況がやってくる。上海の町にしばらくいれば高級住宅、ホテル、ゴルフ場、写真館、火鍋店(中国風しゃぶしゃぶ)といったものが明らかな過剰にあることが分かるが、いずれも需要過多の段階があり、先行してそれを営んでいた者は儲かって笑いが止まらない時期があったのである。

需要過多マーケットが新規参入によってすぐに供給過多となってしまうのは、住宅、ゴルフ場といった投資金額が大きいものに関しては、こうした分野への投資を得意とする華僑資本が大陸への投資機会を常にうかがっていることや、政府への投資申請から認可までに一定期間を要するため「蓋を開けてみれば」といったことが生じやすいことなどによるのだろう。バーやレストランといった投資金額が小額のものは、企業に勤めるよりは「一旗上げてやろう」と思っている人が日本に比べ圧倒的に多いためであろう。

中国市場は流れが速い。需給の動きを常に追い、それに乗ることが特に重要である。■


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