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ついに日本も脱炭素社会へ!?〜コーヒーブレイクしながらわかる

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そもそもなぜ「脱炭素」なの?

まずは、そもそもなぜ今脱炭素が言われるようになっているのか、簡単におさらいしておきましょう。

もし地球に二酸化炭素がなかったとしたら、太陽からのエネルギーは、赤外線に姿を変えて地球から宇宙へと逃げてしまい、地球の平均気温はマイナス19度になると言われていますが、実際には地球は二酸化炭素やメタンなどを含む大気で覆われているので、地表から出た赤外線の一部は大気に吸収され、大気から再び地表に向けて放出されます。この効果により実際の地球の気温は平均して14度程度に保たれています。ところが、大気中の二酸化炭素などが増え過ぎると、大気から地表に向けて放出される赤外線が増え、気温が上昇してしまいます。

これは、世界の気温が産業革命以降にどう変化したかを示したグラフです。着実に上昇傾向にあり、現在までに1.2度ほど気温が高くなったことがわかります。

これに、大気中の二酸化炭素濃度のグラフを重ねてみると、気温と大気中の二酸化炭素濃度との間にはっきりとした相関関係があることがわかります。

2014年に、国連の補助機関である「気候変動に関する政府間パネル」、IPCCが出した報告書は、21世紀末の世界の平均気温は、2000年ころに比べて最大で4.8度高くなる可能性があるとしています。

地球温暖化の問題点としてまずあげられるのは海面の上昇です。南極の氷や氷河が海に溶け出すことや、海水温上昇による海水の膨張で海面が上昇し、このままでは今世紀中に80cm以上海面が上昇すると予測されています。既にフィジーやマーシャル諸島などで高潮による被害が大きくなっており、モルディブやツバルなどは国土の大半が水没してしまう可能性もあります。

このところ数十年に一度とか百年に一度と言われるような大雨や洪水が毎年のように発生していますが、気温上昇により海や陸地から蒸発する水分量が増え、それが雲となるので、昔よりも大量の雨が降るようになった、と考えられます。また、陸から蒸発する水分量が増えたことで山が乾燥し、山火事が頻発するようになったり、水蒸気が水に戻る時に放出されるエネルギーが大きくなったことで、台風が巨大化するようになったとも考えられます。

陸から蒸発する水分が増えることで干ばつが広がり、食料価格が高騰したり、海水温の分布の変化により魚が減り、食料不足が発生して、食糧をめぐる紛争につながる恐れがあることなども地球温暖化の問題として挙げられています。

地球温暖化の問題に国際的に対処するため、1992年に国連で気候変動に関する国際連合枠組条約が採択されまたした。この条約に基づいて、2020年までの各国の温暖化対策の目標を定めた京都議定書が制定され、その後2016年に、京都議定書を引き継いで2020年以降の目標を定めるパリ協定が発効しました。

パリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より十分低く保ち、1.5度に抑える努力をすることを目指し、そのためにできるだけ早く温室効果ガスの排出をピークアウトし、21世紀後半には温室効果ガスの排出を正味ゼロとするという目標が掲げられました。

2018年に公表された気候変動に関する政府間パネルの「1.5℃特別報告書」は、パリ協定による各国の2030年までの目標が達成されても、2100年までに約3度の地球温暖化がもたらされるとしました。また地球温暖化を2度ではなく1.5度に抑えることには明らかな便益があり、地球温暖化を1.5度に抑えるためには排出量を2030年までに2010年比で45%削減し、2050年ころに実質ゼロとする必要があるとしました。

温暖化を1.5度に抑えるのはかなり高いハードルであり、達成するためには各国が相当の努力をしなければならない状況となっています。


排出実質ゼロに向けての各国の状況

グラフは国別の二酸化炭素排出量を示したものですが、このなかで排出量が最も多い中国は、パリ協定で、GDPに対する排出量を2030年までに、2005年の60から65%削減し、2030年ごろをピークにして総量も減少させるとしました。中国のGDPは急成長しているので、GDPに対する排出量の比率を60%削減できたとしても、排出総量は2005年の2倍以上となってしまい、地球温暖化を1.5度に抑制するという目標に対しては不十分と言わざるを得ません。ただ中国は、パリ協定で立てた目標に向かって着実に進んでいるようであり、また、2020年9月には、習近平国家主席が2060年までに排出量を実質ゼロにするとの表明を出しており、地球温暖化対策にさらに積極的に取り組む姿勢を明確にしています。

二酸化炭素排出量が二番目に多いアメリカは、オバマ大統領の時代に締結したパリ協定で、2005年に比べた排出量を、2020年までに17%、2025年までに26から28%削減すると約束しました。その後、トランプ大統領は、世界最大の産油国でもあるアメリカにとって経済的なデメリットが大きいので、「アメリカ・ファースト」の考えから2019年11月にパリ協定離脱の手続きをし、その1年後の2020年11月に正式に離脱しました。しかし、バイデン氏はアメリカのエネルギー・環境政策を一変する考えであり、選挙期間中に2035年までの電力分野での排出実質ゼロと2050年までに社会全体としての排出実質ゼロを目指すことも公約に掲げました。2021年1月に大統領に就任すればすぐにパリ協定に復帰すると見込まれます。

EUは、パリ協定で、2030年までに排出量を1990年比で40%削減し、再生エネルギーの比率を27%以上にして、エネルギー消費は27%削減するとし、また2050年の排出量については80から95%削減するとして、地球温暖化対策で世界をリードしていましたが、さらに2020年に目標を引き上げて、2030年までに排出量を55%削減すると表明しました。2050年の排出量を実質ゼロを目標とする法案も審議中です。

イギリスは早くから温暖化対策に積極的で、再生エネルギーの比率を伸ばすことで化石電源の比率を約2分の1に落としました。2019年6月には、2050年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロとする目標をG7諸国の中で初めて法制化しています。

経済産業省が2020年10月に公表した資料によると、2050年までに二酸化炭素排出を実質ゼロにすることをコミットした国は121カ国と1地域にのぼります。さらに排出量1位と2位の中国とアメリカも舵を切ったことにより、排出実質ゼロへの世界的な潮流がここにきて一気に強まっています。

日本の姿勢

パリ協定で日本は、2030年の排出量を、2013年に比べて26%削減するとの目標を掲げました。しかしこれは、1990年比では18%の削減にしか過ぎず、他国と比べるとかなり見劣りすると言わざるを得ません。気候変動枠組条約締約国会議は、各国に2020年までに国別の目標の再提出を要請しており、日本の削減目標の強化が期待されていましたが、日本は2020年3月に目標の据え置きを決めました。

排出実質ゼロへの世界的な潮流に日本は乗り遅れていると言わざるを得ない状況にあったのですが、先ごろ菅首相は衆議院本会議での所信表明演説の中で、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、脱炭素社会の実現を目指す、と宣言しました。

これまで世界で最も消極的といってもよかった日本が排出実質ゼロへ舵を切ったことに、海外からは賞賛の声が相次ぎました。

ただし、この目標の達成は決して容易なことではありません。

青色の棒グラフは日本の排出量実質値の実績で、2050年に排出量実質ゼロを達成するためには赤い棒グラフのようなペースで排出量を減らしていく必要があると考えられます。この場合、目標達成のためには、2030年時点で、2013年比で排出量を44%削減できていなくてはなりません。しかし日本が現在示している目標は2030年に2013年比で26%削減です。大きなギャップがあり、その削減ペースでいけば2050年には5億トンほどの正味排出量が残ってしまうでしょう。2050年に排出量実質ゼロを実現するためには、排出量削減のスピードを大幅に速める必要がありそうです。


「排出実質ゼロ」に向けての課題

ところで、これまでにたびたび「排出実質ゼロ」ということばがでてきましたが、これはどういう意味でしょうか。

排出実質ゼロというのは、温暖化の原因となるガスを全く排出しないようにするということではなく、地球上の温室効果ガスをもうこれ以上増やさない、という意味です。言い換えると、人間の活動によって排出される二酸化炭素などの量と、森林などが吸収する量とが均衡した状態にする、ということです。

つまり、排出実質ゼロを実現するためには、排出量を減らすか吸収量を増やすかのいずれかということになります。

吸収量を増やすためには、植林などで森林を増やすのが主要な方法ですが、それ以外にもカーボン・リサイクルという方法もあります。回収した二酸化炭素を資源ととらえ、ウレタンなどの化学品に利用したり、光合成を行う生き物を使うバイオ燃料に利用したり、コンクリート製品を製造するときに、その内部に二酸化炭素を吸収させる方法などが想定されています。

とはいっても、限られた国土で森林を増やすのには限界がありますし、カーボン・リサイクルは未だ技術を開発している段階であり、普及するにはまだ10年以上の時間がかかりそうです。よって排出実質ゼロの目標に向かっては、排出量の削減がメインとならざるを得ません。

図は日本の二酸化酸素排出量の構成を示したものです。排出量が2番目に多いのは産業部門です。例えば製鉄では大量のエネルギーを必要とすることに加え、鉄鉱石を鉄に変える過程で石炭を使います。このため製鉄は、日本の排出量の1割以上を占める大量の二酸化炭素を排出しています。製鉄業界では、石炭の代わりに水素を使って鉄を作る技術の開発が始まっており、これにより排出量を大幅に減らすことが目指されています。とはいえ、その技術の確立にはかなりの時間がかかりそうで、2050年には到底間に合いそうにもありません。

グラフは、日本の二酸化酸素・排出量の構成を示したものです。排出量が最も多いエネルギー転換部門とは原油や石炭・天然ガスなどを電気やガソリンなどに転換する発電所や製油所などです。そして2番目に多いのは産業部門です。例えば製鉄では大量のエネルギーを必要とすることに加え、鉄鉱石を鉄に変える過程で石炭を使います。このため製鉄は、日本の排出量の1割以上を占める大量の二酸化炭素を排出しています。製鉄業界では、石炭の代わりに水素を使って鉄を作る技術の開発が始まっており、これにより排出量を大幅に減らすことが目指されています。とはいえ、その技術の確立にはかなりの時間がかかりそうで、2050年には到底間に合いそうにもありません。

となると、やはり全排出量の40%を占めるエネルギー部門での削減が排出・実質ゼロへの鍵となるでしょう。

グラフは発電方法ごとの二酸化炭素排出量を比較したもので、石炭から天然ガスへシフトすることにより発電量あたりの二酸化炭素排出量を大幅に抑えられることがわかります。太陽光・風力・水力・原子力では運転時の二酸化炭素排出はゼロとなります。

次に発電方法ごとのコストを比較すると下のグラフのようになります。石炭・天然ガス・原子力・水力が安く、石油・太陽光・風力は高コストです。

各発電方法の二酸化炭素排出量やコスト以外のメリットも含めてまとめるとこのようになります。

菅首相は2050年までの排出量実質ゼロを宣言した所信表明演説で、「安全最優先で原子力政策を進める」と述べているので、排出削減の加速を原子力発電の稼働で賄う考えであるようです。

グラフは菅首相の宣言より前につくられた日本の電源構成の中期計画です。この時点で既に原子力発電の構成比を大きく上げる計画がたてられていましたが、2050年の排出量実質ゼロの目標に向かって作り直される新たな計画では、その構成比はさらに引き上げられることでしょう。

しかしながら、原子力発電所は、東日本大震災のあと9基が再稼働しましたが、2020年11月現在、安全対策が不十分、テロ対策施設の完成の遅れ等の理由により1基のみが稼働しているに過ぎません。2030年の電力の20%程度を原子力発電で賄うためには30基の稼働が必要となりますが、現在のように不安点な運転が続いている状況から考えれば現実的とは言えないでしょう。

それに、そもそも原子力発電には、取り返しのつかない事故の可能性があることや、核のゴミの処分が困難であることなど、持続可能な社会を目指すという観点からは大きな問題があり、原子力発電を増やすことについの国民のコンセンサスは形成されているとはいえません。2050年の排出量実質ゼロを原子力発電により達成するのはかなり難しいと言わざるを得ないでしょう。

となると、やはり結局は再生エネルギーに頼らざるをえないと言えそうです。電力供給の構成の推移のグラフを、化石電源の削減が順調に進んでいるイギリスや、原子力発電の比率を大きく減らしているドイツと並べてみると、日本は再生エネルギーの比率の増加が大きく遅れていることがわかります。2050年までの排出量実質ゼロを実現するためには、この比率を大きく上げていく必要があるでしょう。


Some clues...

省略(動画本編でご覧ください)

 

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