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COVID-19(新型コロナ肺炎)の経済への影響【前編】中国経済成長率年2%台も

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1. 2003年SARSが経済に与えた影響

まずは2003年に大流行した重症急性呼吸器症候群、いわゆるSARSのときはどうだったかを簡単に見ておきましょう。

SARSは2002年11月に最初の感染者が確認されました。翌年3月にWHOが警告を出し、4月になると感染が拡大、中国の都市では人々は外出を控え、外食などサービス業の利用が激減しました。工場の操業停止も相次ぎます。落ち着きはじめるのは6月で、新規の感染者が減っていきます。そして7月、WHOが封じ込め宣言を出しました。

その間のGDPの推移を見ると、2003年1月から3月の伸び率は11.1%でしたが、SARSが大流行した4月から6月には9.1%にまで大きく減速しました。そして7月から9月に概ね回復しました。

産業別に見てみると、工業などの第二次産業は13.2%だった伸び率が11.3%へ落ち、小売や飲食業などの第三次産業は10.5%から8.7%へといずれも2%ほど落ち込んでいます。SARS終息後については第二次産業は7月から9月期に早くもSARS発生前の状態に戻りますが、第三次産業はさらに3ヶ月低迷し、遅れて10月から12月期に以前の状態へと回復しました。

民間消費額を見ると、2003年1月には10%の伸びがありましたが4月には7.7%へと減速し、5月には4.3%にまで落ち込みました。金額で言うと、2002年の民間消費額の1ヶ月平均は約4000億元でしたが、2003年4月には3407億元となり、実に15%も減りました。3月から8月にかけての半年間消費低迷が続き、4000億元を超えて回復がしっかりと数字に現れるのは10月のことでした。

一方で、第二次産業はなぜすぐに回復できたのでしょうか。当時の中国は、世界の工場と呼ばれたことからもわかるように、産業の輸出への依存度が高く、また、年率10%の高成長期にあり国内投資が極めて積極的に行われていました。輸出と固定資産投資は2003年の1年間をとおして30%程度の速度で安定して増加していたので、第2次産業はすぐに回復できたと考えられます。経済全体としても消費の低迷が旺盛な輸出や投資で補われショックを和らげることができたと言えます。


2. COVID-19が中国経済に及ぼす影響

それでは2003年SARSのときに起きたことと同様のことが起きると仮定して、今回の新型肺炎の経済に与える影響について考えてみます。

2019年の民間消費は1ヶ月あたり3兆4千億元でした。それが、SARSのときと同様に、肺炎流行期間の前半の3ヶ月に13.9%、後半3ヶ月に10.7%落ち込むと仮定すると、ひとつきあたり前半は4768億元、後半は3671億元消費が減退することになります。平常時であればGDPはひとつきに4千9百億元程増加するので、前半3ヶ月についてはその金額が消費の減少幅でそっくり消えてしまうことになります。

つまり、2020年の最初の四半期のGDP成長率はゼロ%程度となると予想できます。

そして、年間の成長率は3%台の半ばにまで落ち込むと予想されます。

SARSの事例を参考にして計算したにもかかわらず、今回の新型肺炎で経済が受けるダメージはずっと大きくなるとの結果がでたのですが、その理由のひとつは、SARSのころには中国経済には10%を超える高い潜在成長力があり、消費が減速しても他の需要項目の高成長により経済全体の伸びが確保されたということでしょう。

SARS流行寺前後のGDPの成長率を産業別に見ると、2003年に消費の影響を受けやすい第三次産業が減速する一方で、第二次産業はそれを補うかのように成長を加速しているのがわかります。

もうひとつの理由は、中国の産業構造が大きく変わったことでしょう。全GDPに占める第三次産業のGDPの割合は2003年の42.2%から53.9%へと大きく増加しており、一方で第二次産業は44.5%から39%へとシェアを落としました。17年間を経て中国経済は民間消費の動向に影響を受けやすくなったということができるのです。

状況はさらに悪くなる可能性もあります。現時点ですでに死者数で上回るなど、今回の新型肺炎はSARS以上に猛威をふるっています。武漢の閉鎖や団体旅行の禁止といった2003年よりも厳しい措置が採られており、よって経済が受ける影響は一層大きくなるものと思われます。また、今回はSARSのときよりも大流行の時期が早く、春節の大型連休期間が打撃を受けました。

今年の春節期間中に観光産業だけで5000億元を超える収入があると見込まれていましたので、数千億元規模の損害が出たとみていいでしょう。さらに、今おこなった仮定計算では消費のこうむる影響しか勘案しませんでしたが、工場の操業停止が相次いでおり産業の受けるダメージも小さくありません。タイミングの悪いことに米中貿易戦争は完全には終わっておらず、それゆえ、輸出を増やして国内需要の減退を補うというのもたやすくありません。

これらの影響の大きさを予測することは困難ですが、仮定計算の結果よりもさらに中国経済を下ぶれさせることは確かであり、これらにより2020年1-3月期のGDPはマイナス成長に陥り、通年では2%台となる可能性もあると言えそうです。

そのようなリスクが高まれば中国政府は経済対策を打つとも考えられます。リーマン・ショック後に中国は4兆元もの巨額景気対策を実施しており、今回も大規模な景気対策を行って経済の大幅な落込みを回避するかもしれません。ただし、リーマン・ショック後の巨額経済対策が債務残高の急増や生産能力の過剰、腐敗、貧富の差の拡大などの問題を生んだとも考えられ、リーマン・ショック後ほどの大規模な経済対策の実施は簡単なことではありません。

 

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