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良い円安と悪い円安〜コーヒーブレイクしながらわかる

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1. なぜいま円安?

グラフは、過去5年間の・ドル円レートの推移です。ずっと110円を挟んで推移していたドル円レートが、このところ急速に円安方向に進んでいるのがわかりますが、それはなぜでしょうか。

その理由の第一は、日本とアメリカとの金利差が拡大していることです。

一般的に言えば、アメリカの金利が高くなれば、金利を求める資金がアメリカに流れるので、円が売られて・ドルが買われて、円が安く・ドルが高くなります。

もちろん、為替レートはいろいろな要因によって決まるので、アメリカの金利が高くなれば、必ず円安になるとは言えませんが、過去のドル円レートの中長期的な動きのほとんどは、日米の金利の差で説明できてしまいます。

ドル円レートの推移のグラフに日本とアメリカの2年物の金利の差のグラフを重ねてみます。

2008年9月にリーマンショックが発生し、11月からアメリカの中央銀行であるFRBが市場に大量の資金を供給する量的緩和政策を開始して、日米間の金利差が縮小します。それに従って・円高が進み、2011年11月には・1ドル75.32円の史上最高値をつけるに至ります。

その後、アメリカの金融政策が正常化されていくのに対し、日本では、2012年12月に誕生した第二次安倍政権による経済政策・アベノミクスの中核である異次元金融緩和、いわゆる黒田バズーガによって、日米の金融政策は逆方向となり、日米の金利差が拡大していきます。それと同時に円安が進み、2015年には1ドル125.85円をつけます。

2016年から2018年にかけては、日米金利差が拡大するなかでも、ドル円レートは110円を挟んで横ばいに推移しましたが、これは、黒田バズーガの効果が強すぎて・2015年にかけての円安の進行が速すぎ、金利差の拡大が一足遅れとなった、もしくは2016年以降の金利差の拡大を、為替レートは2015年までに織り込んでしまった、と説明することができるでしょう。

その後、アメリカ経済に減速する兆しが出て、日米金利差が縮小し始めます。2019年7月にはFRBが10年半ぶりの金利引き下げを実施します。その動きに並行して・ドル円レートは円高方向に向かい、2021年1月には102.68を付けます。

2020年の年初に新型コロナウイルス感染症が発生し、その対策として、各国は・定額給付金などで巨額の資金を市場に投入しました。それから1年半が経過し、アメリカは、ばら撒いた資金の回収を始めます。2021年11月にFRBが量的緩和の縮小を開始し、これに伴いアメリカの2年モノ金利が上昇します。さらに2022年3月、FRBはゼロ金利政策を解除して、政策金利の0.25%の引き上げを実施しました。その後も速いペースでの政策金利引き上げが予想されています。一方で日銀は緩和を維持する姿勢を見せているため、日米金利差が急拡大しました。あしもとの急激な円安は、この・日米金利差の急拡大に歩調を合わせるようにして進行しています。

最近の円安の理由の二つ目として、原油などの資源高を挙げることができます。

一般的に言えば、資源価格が高騰すると、日本のような原材料を輸入に頼る国は、輸入金額が急増するので、貿易赤字が拡大します。すると、輸入業者が輸入のためのドルを調達するために、円を売ってドルを買おうとするので、ドル高・円安が発生します。

このグラフは、最近の原油価格の推移です。そして下のグラフは、日本の輸出と輸入金額の推移と、貿易収支の推移です。原油価格の高騰とともに輸入が拡大している様がよくわかります。輸出も、諸外国の経済の復調に従い増加していますが、2021年の後半になると、各国のコロナショックからの回復が落ち着いたことから輸出の伸びが鈍化し、その結果、貿易赤字が大きくなっていきました。

為替レートは、貿易収支だけでなく、いろいろな要素によって決定されるので、貿易赤字が増えたからといって、必ず円安にはなるわけではありませんが、貿易赤字の拡大が、最近の急激な円安の一因であるとは言っていいでしょう。

円安の理由の三つ目として、もっと長期的な観点から、日本が経常黒字国から経常赤字国へ転換したか、少なくとも、巨額の経常黒字を出し続ける国では、もはやなくなったという点を挙げることができるでしょう。

国際収支の発展段階説という考え方があります。

これは、一国の国際収支は、その国の経済の発展段階に従って・一定の変遷をたどる、というものです。

未成熟の債務国では、経済が発達していないので輸入が輸出を上回り、利子や配当金は国外へ支払うもののほうが多く、それら経常収支の赤字は、借り入れや海外からの投資で賄われています。

成熟した債務国では、輸出産業が発達して、輸出が輸入を上回るようになりますが、まだ債務が大きいので、海外への利子や配当金の支払いの方が上回り、経常収支は赤字のままです。

債務返済国は、輸出産業がさらに競争力を得て、輸出の超過が、利子や配当の支払い額より大きくなり、経常収支が黒字化します。

未成熟の債権国は、経常収支の黒字が続いて、対外的な債権のほうが債務を上回るようになる結果、利子や配当は海外からの受け取りのほうが多くなります。経常収支は巨額となって、黒字分は海外への証券投資や直接投資など<によって相殺されます。

成熟した債権国は、対外純資産が巨大となって、利子や配当の受け取りも非常に大きくなる一方で、賃金の上昇などのために輸出競争力が衰え、貿易収支は赤字となります。

そして債権取崩国は、貿易やサービスでの赤字が、利子や配当の受取額をも上回るようになり、経常収支が赤字化します。

主要国を当てはめてみると、アメリカやイギリスは債権取崩国の典型例です。IT関連や金融関連の手数料収入などサービス収支は黒字で、また海外からの利子や配当の受け取りも大きいのですが、貿易収支の赤字がさらに大きいので経常収支は赤字の状態が続いています。

中国は、10年ほど前までは、大きな貿易黒字を背景にして対外資産が増える一方で、海外の技術を取り入れるため直接投資を積極的に受け入れると同時に・中国企業の対外直接投資は制限されていたことから、海外への利子や配当の支払いも大きく、すなわち成熟した債務国だったといえます。近年は、中国の人件費増加によって海外からの直接投資が細る一方で、中国企業の海外への投資が活発に行われるようになり、海外からの利子や配当の受け取りが増加しています。つまり中国は、未成熟の債権国へ移行しつつあると言えます。

そして日本ですが、日米貿易摩擦が激しかった頃などは、ドイツとともに、巨額の貿易収支による経常収支の大幅黒字が続く、未成熟の債権国の代表でした。しかし近年は、資源価格の高騰の以前から、貿易とサービス収支はほぼゼロ、もしくは赤字で、利子や配当の受け取りの黒字によって経常収支の黒字を保っている状態です。つまり、成熟した債権国になったと言えるでしょう。

長期的なドル円レートの推移をみると、1ドル360円だった時代から2000年頃にかけては傾向的に円高となり、それ以降は横ばいとなっているように見えますが、この変化は、日本経済が・未成熟の債権国から成熟した債権国へと転換したためと考えることができます。

国際収支の発展段階説に基づけば、成熟した債権国となった日本経済は、いずれは債権取崩国へと移行することになります。新型コロナウイルス感染症の発生により、資源価格が高騰して物の貿易が赤字となり、インバウンド消費も消滅したことから、物の貿易の赤字分をサービス収支の黒字で賄うことも期待できなくなっています。当初、新型コロナウイルス感染症による経済の変化は、一時的なものという考え方が一般的でしたが、昨今は、今後も続く、「新状態」であるとの見方も出ています。もしそうであれば、日本は経常収支が常に赤字の、債権取り崩し国へと移行することになるかもしれません。

となると、昨今の急激な円安は、日本経済が、成熟した債権国から債権取り崩し国へと移行することを見越した動き、ということができます。もし債権取り崩し国へ移行するのであれば、円安は125円近辺で止まらず、傾向的に円安が続く時代に入ったのかもしれません。


2.良い円安?悪い円安?

日本経済が円高に苦しんでいたころは、円安は経済にとってプラスであると、ほとんど疑われることなく信じられていました。しかし2015年に125円台にまで円安が進行したころは、円安のデメリットがしきりに言われました。足元の円安局面でも・円安は日本経済にマイナスとの意見も聞かれます。

ではここで、円安のメリットとデメリットとを整理してみましょう。日銀が1月に公表した展望レポートに、為替変動が実体経済に与える影響がまとめられているので、それをもとにしてみていきます。

円安のメリットの第一は、輸出企業の価格競争力が改善して、モノの輸出の数量が増加することです。それにより輸出企業の収益が増加します。それから、訪日外国人によるインバウンド消費が増えることなどにより、サービス輸出が増えることです。第三に、海外からの・利子や配当などの受取額の・円換算値が増えることです。

日銀の分析によれば、これらのうちの円安が輸出数量に与える効果は、近年海外生産の比率が高まり、国内で生産されるものは・高付加価値のものが中心となったことなどから、以前に比べて小さくなっています。また、サービス輸出については、コロナ流行によりインバウンド消費が消滅していることから、円安でもほとんど増加しません。

一方で、企業のグローバル化の進展により、企業が海外での事業から獲得する収益や配当額は着実に増えており、円安が所得収支の改善を通じて日本経済に与えるプラス効果は、近年強まっています。

つまり、円安により得をするのは、グローバル展開をする大企業や、輸出企業と言うことができます。

円安のデメリットは、輸入コストが上昇することにより、原材料を輸入に頼る企業を中心に収益が低下することと、家電など、国内で流通する商品の輸入品の比率が高まっていることもあり、消費者の購買力が低下することです。

つまり円安で損をするのは、国内向けの販売が中心の企業や、国内の消費者です。グローバル展開をする大企業や輸出企業で働く従業員については、会社が儲かった分、給料が上昇するのであれば、円安のメリットも享受できるということになりますが、実際には給与の上昇は停滞しているので、一般的に消費者は円安で損をする、と言えます。


3.円安への政府の対応は?

このグラフは、10%の円安が発生した時に、GDPや、GDPを構成する物の輸出、サービス輸出、設備投資がどう変化するかを推計したものですが、これによれば、日本経済全体は、円安により得をすることになります。

しかし、経済全体では得だとしても、円安により得をする人と損をする人とがおり、円安が進めば、得をする人と・損をする人との間の格差が拡大していくことになります。つまり円安の問題点は、格差が拡大すること、と言うことができるでしょう。

昨今の円安は、あまりに急であり、円安であれ・円高であれ・為替レートが急激に動くことは・経済を混乱させるため良いことではないのは明らかなので、急激な動きを止めることを目的として、政府・日銀の為替介入が行われるかもしれません。

しかしながら、急な動きがない場合、政府は、円安の経済全体に与えるプラスの効果を重視して、円安を容認するかもしれません。他方、もし、円安の格差拡大という問題点を重視すれば、円安阻止に本腰を入れる可能性があります。

「新自由主義」と岸田首相の「新しい資本主義」の回でお話ししたように、岸田首相の新しい資本主義では、経済成長よりも、格差の縮小が重視されるので、円安の格差拡大は問題視されやすいと言えます。

また、昨今、インフレ懸念が高まっており、円安の物価押し上げ効果が注目されやすいとも言えます。

よって、デフレ化で成長を重視したアベノミクスの時代に比べれば、岸田政権では、為替介入などにより、円安の阻止が目指される可能性が高い、ということができそうです。


Some clues...

省略(動画本編でご覧ください)

 

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2021年12月28日第2版発行




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