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日銀のETF購入 問題点は?今後どうなる??〜コーヒーブレイクしながらわかる

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そもそも日銀ETF購入ってどういうことなの?

投資家が、資金運用の専門家にお金を託し、その専門家が株や債券などで運用する仕組みが投資信託です。

その投資信託のうち、証券取引所に上場している、つまり証券取引所を通じて売買することができるものがETFです。

日本銀行は、金融政策のひとつの手段として、2010年12月よりETFの購入を行っています。

日銀のETF購入の目的は、量的・質的金融緩和を通じて2%の安定的な物価上昇を実現することです。どうしてETFを購入すれば2%の物価上昇が実現されるかというと、日銀は「リスク・プレミアムに働きかける効果」であるとしています。

リスク・プレミアムというのは、リスクのある資産の期待収益率からリスクの無い資産からの収益率を引いた差のことで、日銀のETF購入の場合は、株式投資から得られるであろう利益と国債の利回りの差ということができます。

つまり日銀は、株価の下落リスクを減らすことで国民に株式投資を促して、投資を受ける企業を通じて経済にお金が回ることを期待している、ということです。または株価が上がれば、所有資産が増えた考えた消費者が消費を増やす効果も期待でき、これらによる2%の物価上昇の達成が目指されています。

2010年10月、前の白川総裁のときに日銀は、深刻なデフレに陥っている日本経済に対する起死回生の臨時的な策として、買い入れ残高の上限を4500億円とする資産買い入れ基金を創設し、実際に12月にETFの購入を開始しました。

その後買い入れの上限は徐々に拡大されていき(2011/3:9000億円→2011/8:1.4兆円→2012/4:1.6兆円→2012/10:2.1兆円)、白川総裁から黒田総裁に代わった2013年4月には、残高ではなく1年間で1兆円まで買い入れることとなりました。この年間の買い入れ目標額も拡大していき(2014/10:1兆円→2016/3:3.3兆円→2016/7月:6兆円)、コロナショック発生直後の2020年3月には、年間12兆円もの巨額に拡大されました。

その結果、日銀が所持するETFの残高は、時価で50兆円に達している模様です。

日銀が買い入れる対象は、日経平均株価連動型のETFと東証株価指数(TOPIX)連動型のETFの買い入れが中心ですが、これまでに少しづつ変更がなされています。2014年11月にはJPX日経インデックス400に連動するETFが、2016年16月には設備・人材投資に取り組む企業を支援するETFが追加され、また、第4章でお話しするように、日経平均連動型のETF購入が市場を歪めているという批判があることなどから、2018年7月には東証株価指数連動型のETF購入の割合が増やされています。

2020年3月以降の年間のETF購入金額のイメージはこのとおりとなります。年間ETF購入額12兆円のうち、設備投資・人材関連関連用の3000億円を除いた金額の75%は東証株価指数連動型のETF購入に充てられ、残りの25%については、各指数に連動するETFに、その流通残高に比例するように購入額が割り振られます。また日銀は、ETF購入と同じ目的から不動産投資信託・REITの購入も行なっており、その年間購入金額は1800億円です。


日銀ETF購入の効果は?

グラフは、日銀がETF購入を開始した2010年以降の日経平均株価の推移です。

これを見ると、2010年から2012年にかけては株価は全く反応していませんが、白川総裁から黒田総裁に代わって、日銀がETF購入を強化した2013年4月頃から上昇に転じ、また、買入目標額が引き上げられるたびに株価が上昇しているように見えます。

このグラフからは、日銀のETF購入は、確かに日経平均株価を押し上げる効果があったということができそうです。

グラフは、日経平均株価の推移のグラフに東証株価指数の推移のグラフを重ねたものです。これを見ると、東証株価指数は日経平均ほどには上昇していないことがわかります。東証株価指数は市場全体の値動きを現しますが、日経平均株価は一部の銘柄の株価に影響され、価格が歪みやすいという特徴があります。日銀のETF購入は、市場全体というよりは、日経平均株価を特に押し上げたのではないかと疑うことができるでしょう。

前の章でお話ししたとおり、日銀のETF購入の直接的な目的は、リスク・プレミアムに働きかけることであり、それはすなわち、投資家が、よりリスクをとってでも積極的に株式投資をするようになる、ということです。

投資家がどの程度積極的に株式投資をしているかを推し量ることができる指標としてPERを使うことができるでしょう。PERは株価が、一株あたりの利益の何倍となっているかを示しており、その数字が大きいほど、投資家はリスクをとって積極的に株式投資をしている、と言うことができます。

グラフは、黒田総裁に代わった2013年以降の、東京証券取引所一部上場企業のPERの推移です。

このグラフから、日銀のETF購入がPERを押し上げる効果はほとんどなかった、ということができそうです。ただし2020年は、買い入れ限度額の引き上げ以降にPERが急上昇していますが、これは、コロナショックにより企業業績が悪化し、PERの分母である一株あたりの利益が一時的に落ちこんだためと言っていいでしょう。

日銀のETF購入がリスク・プレミアムにはたらきかける効果は、かなり疑わしいと言わざるを得ません。

では、日銀のETF購入の最終的な目標である、物価を押し上げる効果についてはどうでしょうか。リスク・プレミアムに目立った変化がなくても、日経平均株価の上昇による資産効果などにより、物価が上昇しているのであれば、日銀のETF購入には意義があったということができます。

グラフは、2010年以降の消費者物価指数の推移です。このとおり、消費者物価指数は、日銀が目指す2%に向かっていると言うことはできません。日銀のETF購入による物価押し上げ効果は、残念ながらこのグラフからは全く確認することはできません。


日銀ETF購入の問題点

日銀のETF購入の問題点は、まず、ガバナンスの低下、つまり、株式会社制度による企業の管理の仕組みが機能しなくなっているのではないか、という点です。

世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の日本株保有額は45兆円程度と見られ、日銀のETFの保有額50兆円はそれを上回っています。すなわち、今や日銀が日本株の最大の保有機関となっているのです。

その結果、一部の企業では、その発行済み株式数に占める日銀の保有の割合が非常に大きくなってしまっています。ニッセイ基礎研究所の推計によれば、日銀の実質的な保有割合は、アドバンテストで4分の1にもなっています。ユニクロのファーストリテイリングの保有割合は20%強に達し、数ヶ月以内に会長兼社長の柳井氏の保有割合(20.7%)をも超えてしまうだろうとのことです。

日銀は東京証券取引所一部上場企業の2割の会社で事実上の大株主となっていると言われます。日銀が株主として議決権を行使することはありませんが、物言わぬ株主としての存在感が非常に大きくなっており、株主による企業経営に対する監視の目が弱まる恐れがあります。企業買収が成立しにくくなるようなこともあるでしょうし、ひいては、日本企業、もしくは日本経済の競争力低下も懸念されます。

次に、株価に歪みを生じさせているという点です。

日銀のETF購入は、株価の高い値嵩株や、浮動株比率が低い株、つまり発行済み株数に対してマーケットに出回る株数が少ない株の株価を歪めるという指摘がなされています。

東証株価指数は、各上場企業の株価を時価総額で加重平均して算出されますが、日経平均株価は、各銘柄のみなし株価の単純平均なので、一部の株価の高い値嵩株の影響を強く受けます。日経平均を構成する銘柄のうちで、最も影響力があるのがユニクロのファーストリテイリングです。日経平均株価に対する各銘柄のみなし株価の比率をウェートと呼びますが、ファーストリテイリング株のウェートは約13%にもなります。つまり、日経平均は225銘柄で構成されているにもかかわらず、その値動きの13%はファーストリテイリングひと銘柄で説明できてしまうのです。

この状況を指して、日経平均株価指数のことを「ユニクロ指数」と揶揄するマーケット関係者もいます。

また、ファーストリテイリング株は、柳井氏など大株主や日銀の保有などにより、市場に出回っている浮動株の割合は数%に過ぎません。そのため、少ない金額で、たやすく価格が動くという特徴があります。

このような中、日銀が日経平均型のETFを購入すると、その資金の多くがファーストリテイリング株の購入に向けられることになります。そして、ファーストリテイリング株は浮動株が少ないため、容易く価格が上昇します。株価収益率・PERの数値が大きいほど株価が割高であることを意味しますが、2021年3月時点のファーストリテイリングのPERは60前後で、これは、アパレルチェーンのしまむらや、コロナショック発生以前のZARAやH&MなどのPERの3倍程度であり、ファーストリテイリングの株価は異常に高い、と言うことができます。

また、ファーストリテイリング株のような日経平均でのウェートが大きい株の株価が上がると日経平均株価もどんどん高くなります。グラフは、日経平均株価を東証株価指数で割った、いわゆるNT倍率の推移ですが、NT倍率が傾向的に拡大しているのがわかります。つまり、日経平均株価だけが突出して高くなっていっていることがわかります。

日経平均株価は日本経済の状態を示す代表的な指標であり、日本の体温計ということもできますが、それが実は狂ってしまっていると言うことができるのです。

それから、日銀のETF保有額が増えるにつれて、巨額の信託報酬が問題視されるようになってきています。

ETFを保有していると、運用会社に対して一年に一度、信託報酬を支払う必要があります。その金額は、通常の投資信託に比べれば少額ですが、ETFを50兆円も保有していると巨額となり、2020年は約500億円の信託報酬が支払われた模様です。

大手の運用会社に対しては100億円規模の信託報酬が毎年支払われているとみられます。しかし、ETFを1本運用するコストは受け取っている信託報酬の100分の1もかからないでしょうから、これでは実質的に日銀からの補助金ではないかとの批判があります。

今後はどうなるの?出口戦略は?

以上のように日銀のETF購入は、効果が疑われる一方で、問題点が少なくないので、仕組みの変更や、縮小などをする必要があります。

2016年9月、2018年7月と日経平均型ETFの購入の割合が引き下げられ、TOPIX型ETFの購入の割合が引き上げられましたが、これは、前の章でお話しした、日経平均型ETFの購入が個別株の価格を歪め、日経平均株価を異常に高くしてしまうといった弊害に対処したものでした。

今後考えられる仕組みの変更としては、まず、相場が加熱している時には購入を実施しないなど、ETFの購入を、より弾力的にするということです。現状のように、株式相場が急騰したときにまで日銀がETF購入を実施して、さらに相場を吊り上げてしまうことには大いに疑問があります。実際に日銀は、実施する場合でも購入金額を減らしています。2020年末からは相場が上昇する中で1回あたりの購入金額を明らかに減らしており、また、従来は東証株価指数が午前中に前日終値比で0.5%以上下落すれば午後には必ず一定額の買い入れを行っていましたが、本年2月は、その条件に合致しても買い入れを見送る日がありました。報道によると、3月18日・19日開催の日銀の金融政策決定会合では、年間の購入目標額が削除される見通しとのことで、今後は、株式相場がかなり下落しない限り、新規の買い入れは行われないようになるのかもしれません。

日銀が、購入残高をいくらでも増やすことができる現状を問題視し、購入残高を一定限度内に抑えるルールが必要との声もあります。例えば、日銀が所持するETFの残高を、日銀券の発行残高の一定割合までとするといったルールで、ETFの残高を日銀券発行残高の50%に抑えるというルールならば、現在の日銀券発行残高は110兆円ほどなので、ETF買入上限は55兆円となります。現在日銀は約50兆円分のETFを所持しているので、概ね限度額まで購入している、ということになります。また、日銀券は毎年2兆円から6兆円ほど発行されているので、ETFの保有残高が上限に達したあとは、年間の購入金額は1兆円から3兆円まで、となります。

日銀のETF保有は、いずれは減らしたり、廃止したりしなくてはならなくなると考えられますが、いったいどうやって削減・廃止するのか、あらかじめ考えておく必要があるでしょう。

例えば、個人投資家向けに数%のディスカウントをして売り出しを行うという方法が考えられます。ただこの方法は、ETFを買う資金的余裕のある人だけにディスカウント分のお金を付与するようなもので、不公平であるといった問題があります。

GPIFに簿価で譲渡するという案もあります。こうすれば一部の投資家に偏ることなく、年金を通じて広く国民が利益を得られますが、GPIFは運用資産の25%を日本株で運用することとしており、日銀保有のETFを引き受けると、日本株の比率が大きくなり過ぎてしまうという問題があります。

また、各企業に自社株として買い取ってもらうという案もあります。しかしこの方法を採用する場合、いったんETFを個別株に分割しなくてはなりません。日銀が個別の企業の株を持つことには問題がありますし、買取資金が足りず、自社株買いをしたくないという企業もあるだろうといった問題があります。

なお現在は、経済がコロナ・ショックから立ち直る途上にあり、いますぐ日銀のETF保有が停止されることは考えられませんが、株式市場や金融システムに不安を生じさせないためにも、早めに出口戦略を決めて、公にしておく必要があるでしょう。


Some clues...

省略(動画本編でご覧ください)

 

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