MMT〜現代貨幣理論

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1.MMT〜現代貨幣理論の基本的な考え方

とある南の海に、TOARUという王国がありました。TOARU王国の主な産業はプライベートジェット機の製造です。TOARU王国にはTOARU中央銀行があり、TOARUドルという通貨を発行しています。TOARU中央銀行の総裁はTOARU王が兼務しています。

とある日のこと。TOARU王は急にスキーに、行きたくなりました。しかしTOARU王国にはスキー場がありません。そこでTOARU王は北の国にスキーに行くため、100億TOARUドルの王室専用ジェット機を購入することにしました。

さっそく国内のTOARUジェット社にジェット機を発注したTOARU王はパソコンのキーボードを叩き、TOARU中央銀行にあるTOARU商業銀行の準備預金を100億TOARUドル増やし、同時にTOARU商業銀行にあるTOARUジェット社の口座に振込の手続きをしました。

これにより、確かにTOARUジェット社に100億TOARUドルが払い込まれましたが、TOARU王はジェット機購入代金を調達するために増税をしたり、国債を発行したりなどしていません。ではTOARU王はどうやってジェット機購入代金を調達したのでしょうか。

TOARU王はパソコンのキーボード入力でジェット機購入代金を生み出したのでした。オカネを生み出したといえば魔法のようですが、これは魔法でもなんでもありません。自国の通貨を発行する国の政府は、キーボード入力で民間銀行が中央銀行においている準備預金を増やすだけで、自国の通貨建てで売られているものをなんでも買うことができるのです。

このこと自体は学説というよりも事実の記述にすぎないのですが、これに特に着目することで現在の経済状況を説明したり、あるべき政策の提言を行うのが現代貨幣理論、MMTなのです。

つまりMMT〜現代貨幣理論は、政府は税収や国債発行など、収入のことを気にすることなく出費することができると主張するのですが、とはいっても、税金や国債はいらないと言っているわけではありません。

もういちどTOARU王国をみてみましょう。TOARU王は、その通貨、TOARUドルを金や銀などと交換することを約束していません。米ドルなどとの交換の約束もありません。つまりTOARUドルはなんの裏付けもなく発行されているのですが、それなのになぜ国民は政府からの支払いをTOARUドルで受け取るのでしょうか。

MMTは、国民が通貨を使用するのは、政府が自国通貨での税金の支払いを義務付けているからだとしています。つまり税金は、税収のためというよりも、国民にその通貨を使ってもらうために必要なもの、ということになります。このことをMMTは「租税が貨幣を動かす」と表現しています。

加えて、景気が拡大すれば自動的に税収が増えインフレーションが抑制され、景気が後退すれば税収が減ることにより景気の波を小さくし、経済を安定させるのも租税の大事な機能だとMMTは主張しています。

国債については、金利を、調整する機能が重要というのがMMTの考え方です。政府は、準備預金の残高を増やすことで支出をしますが、準備預金にはほとんど利息がつかないので、準備預金が多すぎると金利が低くなりすぎてしまいます。そこで政府は、金利が低すぎると思えば民間銀行に国債を売って準備預金を減らし金利を引き上げ、逆に金利が高すぎると思えば民間銀行から国債を買い入れて準備預金を増やし金利を抑えることができます。

2.財政赤字はどんなに多くても構わない!?

ある国の経済を、政府部門と民間部門、外国の3つに分けるとすると、

政府部門の収支 + 民間部門の収支 + 外国の収支 = 0

となります。これは、どんなときでも成り立つ恒等式であり、政府が巨額の赤字を出し、経常収支が黒字で、つまり外国が赤字となっている日本に巨大な貯蓄があるのは、この恒等式とぴったり一致します。1990年代の終わりから2000年代初頭にかけてアメリカの政府部門は一時的に黒字に転換していましたが、これは民間部門で投資が貯蓄を上回る赤字の状態となっていたことで説明ができます。

さて、この恒等式のうちの、政府以外の部門の黒字がまずあって、政府はそれを借り入れて赤字の支出を行なう、というのが一般的な考え方ですが、MMT〜現代貨幣理論では政府の支出がむしろ先にあり、政府以外の部門の黒字額は金利や為替レートの変化などによって調整される、と考えます。

政府は収入のことを考えずに自国通貨でいくら支出してもデフォルトすることはありえず、ゆえに国内に失業が発生している状態では、いくらでも財政赤字を増やすべきで、債務の金額の上限を定めたりすることは全くばかばかしいことだとMMTは考えます。

とはいえ、民主主義のもとでは自分の利益を追い求める有権者の声が政策に大きく反映されるので、政府の支出は過大になりがちです。そして、完全雇用が達成されている状態で支出を増やせばインフレーションが発生するでしょう。また、民間部門が競争原理のもとで使ったはずの資源を政府が使えば、経済に非効率が発生する危険もあります。このような点が、MMTを批判するひとの主要な根拠となっています。

3. 就業保証プログラム

このような問題点を解消できる政策として、MMT〜現代貨幣理論は就業保証プログラムの導入を提言しています。

働く意欲があるのに仕事をみつけられない全ての労働者に政府が統一された賃金と福利厚生で仕事を提供するプログラムで、これにより失業がなくすことに加えて、労働者一般の労働条件が一定の水準を下回らないようになることが期待されます。

そして、このプログラムに参加する労働者は景気後退時に増え、拡大時に減るので、プログラムへの財政支出は景気後退時に増加し、拡大時に減少して、自動的に景気の波をなめらかにする効果を期待できます。また、プログラムの外の労働者の賃金の増減を小さくすると予想されるので、不況時にはデフレ圧力を、景気加熱時にはインフレ圧力を弱めると考えられます。

さらには、一般的な景気浮揚のための財政政策はすでに裕福な人々に有利に働き格差を広げる傾向がある一方で、就業保証プログラムにはそれがないので優れている、とMMTは主張しています。

4.為替相場制度とMMT

固定為替相場制度、自立的な金融政策、資本の国際移動の自由の3つの政策を同時に達成することはできないということは、「国際金融のトリレンマ」としてよく知られていますが、政府は中央銀行内の準備預金を増やすことにより自由に支出を行うべきと唱えるMMT〜現代貨幣理論では、3つの政策のうち自立的な金融政策は絶対に必要ということができます。

よってMMTは、経済規模が大きく為替市場での取引量が多く、為替相場の決定を市場に任せることができる先進国など一部の国での採用が望ましいということができます。

為替相場制度と国内政策の自由度の関係をまとめるとこうなります。

日本やアメリカのように自国通貨を有する国が変動為替相場を採っている場合、国内政策の自由度は最も大きくなります。政府は自国通貨で売られるものならなんでも買うことができ、デフォルトのリスクもありません。ただし政府支出が大きすぎるとインフレや通貨安が起きる恐れがあります。

中国のように自国通貨を有する国が相場の変動幅を管理している場合、政府は自国通貨で売られているものをなんでも買えますが、支出が多すぎると為替レートを動かすことになってしまうので、政策はやや制約を受けることになります。

金本位制の時代や多くの途上国のように自国通貨を有する国が固定相場制を採っている場合、政府は自国通貨で売られているものをなんでも買う能力を有してはいますが、固定の為替レートでの交換を約束しているので、豊富な外貨準備がある場合を除き、国内政策の自由は限られたものとなります。

ユーロ参加諸国のように、自国独自の通貨を有していない国の場合は、財政赤字のためには自国の自由にならない通貨で借り入れなくてはならないので、政策余地は非常に限られたものとならざるを得ず、常にデフォルトのリスクにさらされることになります。このことが2010年前後のユーロ危機の原因だったということができ、MMTに言わせれば、ユーロには設計上の欠陥があるとということになります。

5.日本経済とMMT

日本の国債残高は増加の一途にあり、国と地方をあわせた政府債務残高はGDPの2倍を超えて先進国のなかで最悪とも言われます。ギリシャやイタリアなど債務危機に直面したヨーロッパ諸国よりずっと債務が多いにも関わらず、日本経済には危機に陥る気配すらありませんが、その理由はMMT〜現代貨幣理論によって明快に示すことができます。

ユーロ諸国とは異なり、日本の政府債務は巨額といえども自国通貨建であり、キーボード入力だけでいくらでも返済できるので、デフォルトすることはあり得ません。財政赤字が増え続ければインフレが発生するリスクがありますが、長くデフレで苦しんでいる日本は当面インフレの心配をする必要もありません。

次に、日本で2001年に導入され、アメリカでもリーマンショック後数度にわたり実施されている量的緩和は、準備預金をどんどん増やすという点では、準備預金を増やすことでいくらでも支出可能と唱えるMMTと共通しているので、いっけんMMTに似ているようにもみえます。しかしMMTでは、政府支出のために準備預金を増やすのであって、準備預金をいくら増やしても、政府の支出増加が伴わなければ意味がありません。MMTでは、政府が支出をすることで通貨が生まれ、銀行が融資をすることで預金が生まれる、というように、常に支出が先行します。それとは逆の、準備預金を増やすと政府の支出や銀行の融資が増えるという因果関係は成り立ちません。MMTによれば、日本の量的緩和に、めだった効果が見られないのは当然のことと言えるのです。

最後に、長くデフレに苦しみ、今また新型コロナウイルスによる不況にみまわれようとしている日本は、今後どのような政策を採るべきでしょうか。

MMTから導き出される答えは、債務残高を気にすることなく財政赤字をどんどん増やす、ということになります。

ただし、やみくもに支出するのではなく、格差を広げたり、一部に利益が偏る不公平な政策ではないことが必要です。就業保証プログラムはその一例です。経済の効率性を損なわないことも重要で、そのため個別企業の救済には慎重でなければなりません。他方、消費税の減税や国民全員への現金支給のような政策は、MMTからは有効な政策と言うことができます。そして、景気が回復してきたら、インフレが発生する前に赤字拡大を速やかにやめることも大事です。


Some clues...

省略(動画本編でご覧ください)

 

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