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株価とマネーサプライの関係〜コーヒーブレイクしながらわかる

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https://youtu.be/tj_NHY42WNE

80年代バブルのケース

まず、日本の1980年代のバブル期のケースでみてみましょう。

80年代のバブルが形成された流れを簡単におさらいすると、多額の貿易赤字に苦しんでいたアメリカが主導して、日本、イギリス、フランス、西ドイツとアメリカの間でドル高の是正が1985年に合意されました。歴史的なプラザ合意です。この結果1ドル240円程度だったドルは、1年後には1ドル160円まで上昇し、3年後には約半分の120円台となりました。

急激な円高により、「円高不況」が発生します。これに対処するために日銀は強力な金融緩和策を実施しました。日銀の金利の引き下げと、過度の円安を阻止するためのドル買い・円売り介入により通貨供給量が大幅に増加します。猛烈な金余りが発生し、過剰通貨が株式や不動産投資に向けられて、株価や地価が高騰しました。

グラフは公定歩合の推移です。プラザ合意から4か月後の1986年1月、それまで5%だった公定歩合が4.5%に引き下げられます。その後段階的に引き下げが実施され、1987年2月には2.5%となりました。そしてこの低金利が2年3か月間続けられます。

これに、マネタリーベースとM1の推移のグラフを重ねます。

ちなみにマネタリーベースというのは、政府が世の中に供給しているお金のことで、具体的には紙幣の発行残高と、硬貨の流通高と、銀行が日銀に持つ当座預金の残高との合計金額です。

M1というのは、人々が持っているお金のことで、具体的には紙幣の発行残高と、硬貨の流通高と、人々の銀行預金の残高との合計金額です。

このグラフが示す通り、日銀が公定歩合を引き下げ金融緩和を開始した時からマネタリーベースとM1の拡大が始まります。マネタリーベースとM1は急拡大し、公定歩合の引き下げが終了してもしばらく拡大幅が広がっていきます。そして1989年に公定歩合の引き上げが始まるとM1が収縮し始め、やや遅れてマネタリーベースの拡大も減速していきます。

これに、株価の推移のグラフを重ねてみましょう。赤い線は日経平均の推移で、オレンジの線は日経平均の前年同日比です。

貨幣供給の拡大の開始と全く同じ時に株価の上昇が始まります。日経平均は、貨幣供給の拡大の加速とともに高騰し、1年半の間におよそ2倍となりました。1987年の後半に貨幣供給の拡大ペースが鈍ると株価も調整します。

マネーストックの拡大の開始と全く同じ時に株価の上昇が始まります。日経平均は、マネーストックの拡大の加速とともに高騰し、1年半の間におよそ2倍となりました。1987年の後半にマネーストックの拡大ペースが鈍ると株価も調整します。

1988年になり、マネーストックが前年比10%前後での拡大を続けると株価は再び上昇しました。そして1989年に日銀が引き締めに転じ、まずM1が収縮し、やや遅れてマネタリーベースの拡大が減速すると、株価も下落しました。

このように、80年代のバブル期の株価は、マネーサプライの動向とかなりの連動性をもって推移したことがわかります。


アメリカのケース

このグラフは、リーマンショック直前から現在までのアメリカの貨幣供給量と株価の関係を示したものです。緑の線はマネタリーベースの前年比の前年比で、濃いオレンジ色の線はアメリカの代表的な株価指数であるS&P500指数、薄いオレンジ色の線はアップル社などハイテク企業の比率が高いナスダック指数の前年比の推移です。

マネタリーベースが大きく増加している時期が4回ありますが、古いほうからそれぞれ、リーマンショック後の量的金融緩和策・いわゆるQE1、量的金融緩和策の第2弾・QE2、同じく第3弾・QE3、そして、今回の新型コロナ感染症対策です。ちなみに「量的金融緩和策」とは、中央銀行が金利ではなく市中に供給する資金の量を操作して行う金融緩和策のことです。

QE2とQE3では、マネタリーベースと株価の動きが非常によく似ており、前年からの伸び率もほぼ同じであったことがわかります。

しかし、QE1についてはマネタリーベースの拡大と株価とは全く連動していないように見えます。

QE1の期間を取り出して見てみると、リーマンショックにより、マネタリーベースが急拡大するなかで、株価は逆に大きく下げています。

このグラフにM1の推移のグラフを重ねてみます。すると、この期間のM1は、マネタリーベースのようには拡大していないことがわかります。

グラフは同じ期間のマネタリーベースとM1の金額を示したものです。リーマンブラザーズが破綻した2008年9月よりマネタリーベースが急拡大しているのに対し、M1はマネタリーベースほどは増加しておらず、2008年12月には、マネタリーベースの金額がM1の金額を上回っています。

マネタリーベースは政府が発行しているお金であり、連邦準備預金と、紙幣と硬貨とから成ります。M1は民間で所持されているお金であり、銀行預金と紙幣・硬貨とから成ります。通常の金融緩和策では、中央銀行はマネタリーベースを拡大することを通じてM1を拡大させて景気の浮揚を目指しますが、リーマンショックの時は、FRBは破綻の危機に瀕した金融機関を救済することを目的として図のAの部分を急拡大させました。通常の金融緩和ではM1が拡大して個人などが所持するお金が増え、それが株式投資に回されて、株価に上昇圧力が加わりますが、リーマンショックでは、マネタリーベースが拡大してもM1はあまり増えなかったため、株価が低迷したと考えることができます。

アメリカのコロナ流行以降の貨幣供給量の推移を見てみると、初期にマネタリーベースが急増し、やや遅れてM1もグングンと上昇していることがわかります。M1が急速に伸びたのは、ひとりあたり1200ドルの現金給付が春と夏の2度にわたり実施されたことや、失業給付の週600ドルの追加支給などにより、民間に多額の資金が供給されたことが理由です。この資金が株式市場に向かい、株価を押し上げました。

薄いオレンジ色の線はハイテク株の比率が高いNASDAQ指数ですが、11月ころまで、M1の動きと連動した動きをしており、前年に比べた伸び率もほぼ同じであることがわかります。これは多額の資金を手にした人々が、テスラやアップルなどNASDAQ市場に上場する株式に積極的に投資をした結果と考えられます。

なおこのグラフからは、S&P500指数の上昇はM1の増加に比べて小さいものに止まっているようであり、またNASDAQ指数も、11月ころからM1の上昇に追いついていないように見えます。アメリカではまもなく次の現金給付が実施される予定であり、その資金も株式市場に向かうであろうことも考え合わせれば、株価のさらなる上昇もあり得ると言うことができるでしょう。


コロナ禍の日本 日経平均は30000円を超える!?

日経平均株価は2020年3月に大きく下落したあと、夏までに下落分を取り返し、11月頃からはさらに上昇して、2021年初には30年ぶりに28000円台にのせました。実体経済の状況からいえば、明らかに上昇しすぎの感がありますが、貨幣供給量との関係で見てみると、どうなるでしょうか。

日本では元々デフレ脱却のための強力な金融緩和を実施していたので、アメリカほど顕著ではありませんが、日本でも新型コロナウイルス対策として実施された、個人向けの特別定額給付金や企業向けの持続化給付金、各種の資金繰り支援などを背景としてマネーベースとM1、ともに急増しています。

これに、株価の前年比のグラフを重ねてみます。

アメリカの場合ほど顕著ではありませんが、日本でもM1の拡大に伴い株価が上昇しており、日経平均株価の前年比は、概ねM1の伸び率と同じか、やや超えた程度となっています。よって、このグラフからは、現在の株価に割高感があるとは言えない、と言うことができるでしょう。

なお、日経平均株価は、ファーストリテイリングなど、ごく一部の銘柄の株価に左右されるので、市場全体の状況を示す指標としては適切なものではありません。そこで東証株価指数、TOPIXについて見てみると、前年比の伸び率は7%強であり、M1の伸び率の半分程度にとどまっています。ゆえに、M1の伸び率に照らして言えば、TOPIXにはまだまだ上昇の余地があり、M1の伸び率と同程度にまで上昇するのであれば2000ポイントに達する、と言うことになります。

その場合の日経平均は、現在の日経平均株価のTOPIXに対する倍率で計算すると、30000円を越えることになります。


株価とマネーサプライの関係を考える上での大事な注意点

以上のように、貨幣供給量と株価とは強い相関関係があるのですが、次のふたつの点には注意をする必要があります。

まず、中央銀行が市中に大量の資金を放出している状況は、いずれは終わる、という点です。経済が一時的なショックから立ち直れば、緩和的な金融政策は中立的に戻されます。経済が十分な回復を果たし、明らかな上昇局面に入れば、中央銀行は引き締め政策、すなわち、放出し過ぎた資金の回収に舵を切るでしょう。金融緩和で大きく押し上げられた株価には、金融政策の変更のたびに強い下方圧力が加わることになるはずです。

グラフはアメリカのQE2期間前後の貨幣供給とNASDAQ指数の推移ですが、NASDAQはQE2終了後すぐに急落し、いったん戻すものの、もう一度大きく下落して、QE2期間中のピークから比べると約20%もの下げとなりました。

次に、株価は本来、企業の現在から将来にかけての利益の金額によって決定される、という点です。長年デフレに苦しんでいる日本ではコロナ禍が過ぎたあとでも金融政策は引き締めに転じないかもしれません。しかし、民間に放出された資金が消費に向けられたりして企業業績が好転したり、インフレーションが発生して企業の利益の金額が増加したりしない限り、結局は株価は元の水準に戻ってしまうはずです。

グラフは、先月掲載した動画でご紹介した、東証一部上場企業の当期の利益とTOPIXの関係を示したものです。これをみると、企業の利益水準に半年ほど先行して株価が変動していることがわかりますが、アベノミクス開始直後の2013年の末や、2015年前半では日銀の金融緩和政策を受けて株価が大きく上昇したものの、結局は企業の利益水準にまで調整しています。

これを踏まえてコロナ流行後の状況を見てみると、現在のTOPIXの上昇は、来期の企業の業績がコロナ・流行の直前に戻ると考えた場合でも、1800ポイントを超える現在のTOPIXの水準は既に行き過ぎた状態にあると言え、消費税の増税より前の2019年前半の収益状況に戻るとしても、既に上昇し過ぎの域に入りつつあります。超金融緩和政策によって今後さらに株価が上昇する可能性は低くありませんが、結局は今の水準あたりまで戻ってしまうことも想定しておかなければなりません。


some clues...

省略(動画本編でご覧ください)

 

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2021年12月28日第2版発行




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