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居酒屋「栄」の成功の秘訣


◆スナックで儲ける

栄の強さの第三は多角化戦略の成功である。居酒屋とスナックでは、顧客一人当たり出費額も利益率も圧倒的にスナックの方が高いが、栄は、居酒屋とスナックの併設によりスナックの稼働率を上げ大きな利益を生み出している。

スナックは、誰かに連れていってもらわない限りなかなか足を踏み入れないものだ。しかし居酒屋は初めてでも抵抗なく入ることができる。そして居酒屋のウェイトレスに、帰り際に「上のスナックもどうですか」と言われれば、ホテルの部屋に帰ってもすることがない出張者は、そのほとんどがスナックへ吸い込まれていく。居酒屋で一杯飲んで気持ちが大きくなっていることもそんな行動を加速する。栄の調査によれば居酒屋利用者の、なんと5人に1人程度がスナック栄に寄って帰るそうだ。

◆有能な中堅管理職の存在

栄の強さの第四は、マネジャー嬢が有能で店をよくまとめており、かつ彼女へ対する大幅かつ適確な権限委譲が行われていること。中国でのビジネスにおいては、有能な中間管理職がいるかどうかがその成功の分かれ道になることが少なくない。以前、「レビューショー終了から何を学ぶか」という題で、本稿同様に上海の店の経営について書いたことがある。上海で最高水準のレビューショーがウリで、オープン後数年間はいつ行っても満員であったシーザースクラブが閉鎖されるに至る理由を述べたものだが、そこには、日本企業が学べる点として「コンセプトの明確化・ブランドイメージの確立」「需給のヨミ」に並んで「中方との連携をする中間管理職」の重要性を挙げた。以下引用しよう。

休業前最終日のレビューショーが終了し、一部のファンが席を立つのを惜しんでいる時、ダンサー達は三々五々下りのエレベーターへと向かっていった。再開の日を定めぬ休業であるにもかかわらず店スタッフによる打ち上げのようなものはなかった。これを見てスタッフ間の関係の疎遠さを感じた。

しかし、以前はそうではなかった。店のスタッフたちのつながりは決して浅くなかった。この変化は、店をよくまとめていた日本人マネジャーが昨年末に退職したことに起因しているように思われる。彼は中国語も堪能で、ホステス、ダンサー、その他スタッフ、日本人投資家、中国人経営者いずれとも交流し、その不満としているところ、要求などをよく把握していた。彼の退職後はこれらの人々を結ぶものがなくなり、客の目からも関係がギクシャクしているのが感じられるようになった。

◆これからは新たな試練が・・・

上に「栄は出張者を重視している」と書いたが、これはホテル街に位置する1号店において顕著であったことで、実は日本人居住が多い地域に出店する3号店では客の大半が駐在員となっている。駐在員は他にもいい店を知っているので、店に対する忠誠度を上げるのは容易ではなく、マネジャー嬢も1号店の戦略が3号店にはそのまま通用しないと感じているようで、これまであまり努力してこなかった新規顧客開拓を重視し始めているようだ。

また、1号店は店の規模が小さいだけに従業員全体に管理職の目がよく行き届き、それが家族的な職場の雰囲気作りにつながっていた。しかし3倍の規模となった3号店ではそうはいかない。今は、人事システムの構築などを急いでいるそうだ。

新規顧客を開拓しマーケットシェアを高めることも、緻密な人事システムによって従業員を管理していくことも、言ってしまえばありふれている。これらは栄を「一人勝ち」状態にしてきた要素ではない。今のところ3号店も毎日満員となっているようだが、この入りを保つことは容易なことではないという危機感が内部にはある。ただおそらくは、有能なマネジャー嬢はこの危機感をバネに新たな栄戦略を生み出していくのだろう。■


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 【2002年2月15日記】居酒屋「栄」成功の秘訣
 【2001年5月16日記】日本は中国で売れるか?

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