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日本は中国で売れるか?

(2001年5月16日記)


日本のファッション・アニメ等々の若者ソフト文化が中国他のアジア諸国に浸透しつつあり、日本が世界に伍していくにはこのパワーを生かすしかないとする意見がある。

しかし、中国に進出した日本ブランドでも多くの失敗組がおり、単に日本のソフトを持ち込むという発想では、少なくとも大陸中国に対しては不十分である。中華風味付けを加えることによって初めて市場に受け入れられるようになる。

本稿では、日本のものが中国で売れる条件について、具体例を挙げつつ考える。


1月15日付『日経ビジネス』表紙には『大東亜厚底共栄圏』という、我々中国に働くものにとっては、何ともドキッとさせられる文字が掲げられていた。日本のファッション・アニメ等々の若者文化が大陸中国・香港・台湾・東南アジア等のアジア諸国に浸透しつつあると述べる特集記事のタイトルである。同誌によれば本企画は、中国等が急速に発展していく中で、今後日本はどうすべきかという疑問に応える意図から組まれたものとのことだ。「日本のソフトパワーがアジアを席巻しつつあり」「日本が世界に伍していくにはこのパワーを生かす」しかないとしている。

しかし、上海の町にも多くの日本ブランドの失敗組がおり、単に日本のソフトを持ち込むという発想では、少なくとも大陸中国に対しては不十分である。中華風味付けを加えることによって初めて市場に受け入れられるようになる。

■「中華風味付け」

まずは文字通りの「中華風味付け」の例を二つ挙げてみよう。

この1年程の間に上海ではラーメン屋の数が急増した。中でも元気なのが香港経由で進出してきたとあるラーメンチェーン。第1号店開店の折りは「ついにラーメンらしいラーメンを食べられるようになったか」と多くの在留邦人に歓迎された。しかし、その後、味に変化が見られ、今では、敬遠するとまでは言わないものの、我々にとっては積極的に行く場所ではなくなってしまっている。メニューは日本的でも味が中華風となっていったのだ。しかしその一方で2号店、3号店と拡大を続け、そのいずれの店舗もローカルで大いに賑わっている。今ではラーメン文化はかなりの程度上海人に根付いたといっていい。

台湾経由で入ってきた某日系喫茶店チェ-ンも同様だ。『スターバックス』進出前で、まともなコーヒーは外資系高級ホテルぐらいでしか飲めず、ゆっくり話しをできる喫茶店は、日本でいう同伴喫茶のような、昼から真っ暗な場所くらいしかなかった頃、同店の進出も我々日本人にとって大変明るいニュースであった。しかしこちらも次第に変化をし、今では日本人はあまり行かない場所となっている。コーヒーの味は保たれているようだが、軽食が台湾風のものばかりで日本人の口には合わない。そして、客層が日本人からローカルへと移っていった。日本人があまり行かなくても客がまあまあ入っている点も、上記ラーメンチェーンと同様である。

両者に共通するのは、日本風が中華風にうまくアレンジされたということ。両者ともに客が来店した時に「いらっしゃいませ」と日本語で声をかけるなど(客が中国人の時も同様である)、日本色を出してはいるが、肝心な味の方は中華風に調整している。

実は両者とも日本から直接上海に入ってきたわけではなく、台湾・香港といった地域を経由してきている。そのためか、上海に来た時点で既に純日本的とはいえない味となっていた。そして上海に来てからも変化を続け、日本からさらに遠いところへ行ったというわけである。


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