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本ページでは他サイト等に掲載された大薗治夫の過去の著作物を再掲しています。

シルクロードはともかく盛り沢山だ

莫高窟

8日目、あまりにも有名な莫高窟へ。砂漠の真ん中の岸壁に1600メートルにわたって掘られた石窟は確かに迫力がある。

これらの石屈は4世紀から14世紀へと1000年をかけて次々とつくられていった。時代時代の金持ちが寄進して自分のリクエストを交えて作らせているので、よくよく見れば服装、化粧、踊りなど相当にバラエティに富んでいるとのことだ。

私の目を引いたのは、仏や飛天(飛翔する天人)などの女性的美しさだ。仏教芸術の鑑賞というのは構えてしまいがちだが、私の楽しみ方はそうなのである。私は常日頃「中国の歴史上美人の研究家である」とうそぶいているが(中国美人論についてはいつか機会があればご紹介したいと考えている)、敦煌の壁画の顔は、美人研究家の目にもかなう大変美しいものが多い。この地はシルクロードの要衝として豊かな町であったであろう敦煌には富で集められた、または富に引き付けられた美人が多かったに違いない。また現代日本人は欧米系の混じった顔を美人と思う傾向にあるが、当時の国際都市敦煌には、中国系にイラン系の血が混じった我々の感覚に合う美人も多かったであろう。多くの美人を見て目が肥えている職人が描くのだから当然に美人の画となる。天井を優雅に舞う飛天はその曲線美がよい。

衣は身体にぴったりとくっつくボディコンである。日本では仏教画においてこのような表現がなされることはまずないだろう。国際都市敦煌では、美しいものをそのまま描くということが自由になされる雰囲気があったのであろう。

ところで莫高窟のガイドに案内してもらったのだが、「これはアメリカの○○に盗まれました」とか「この部分は今は大英博物館にあります」という説明が妙に多い。そこでちょっとストレートな問いではあるが、中国の貴重な文化歴史遺産が国外に持ち去られていることについてどう思うか聞いてみたところ、それまで温和であった彼女が語気を強くし「当然返してもらうべきだ。あなたはそう思わないのか」と怒られてしまった。愚問であった。

敦煌故城

その後、映画敦煌の撮影のために作られた敦煌故城と博物館を見る。敦煌故城はガイドブックではおまけ程度にしか紹介されていないのだが、城壁に上がれば見渡す限りの砂漠で、攻め寄せてくる敵の騎馬兵を想像するなどしていれば結構悪くない。

夜飛行機でウルムチへ。

……と、ここで本編は終了するつもりであった。「今回の旅行は特に問題も起こらず平和なもんだったなあ」などと思い飛行機にのっていた。しかし大小何らかのトラブルが発生するものである。ウルムチ空港のターンテーブル前で荷物を待っている時、鼻をつくにおいがしてきた。白酒のにおいだ。誰かが預けた白酒が割れたのであろう。しばらくして荷物を待つ人々の目が一つのスーツケースに集まった。液体が表面にべっとりついた荷物が出てきたのである。Hさんのバックだ。バックを取り上げる独Hさん。強烈なにおいがしている。彼は荷物に酒など入れてないという。彼のバックのすぐそばに詰まれていた荷物が犯人だったのだろう。スーツケースの中まで酒が染み込んでいる。幸い中のものは濡れていないようだが、スーツケースのにおいは当分落ちないに違いない。その後も、Gさんや私のもの等続々と荷物が出てくるが他に被害を受けたものはないようだ。空港の係員が雑巾で酒を拭き取り、スーツケースの中のものが濡れないようにと大きなビニール袋をもってきた。

「クレームしますか。ひょっとしたらスーツケース代とか航空会社が弁償してくれるんじゃないでしょうか」

Hさんは

「いやいいですよ。手間がかかってさらに頭にくるのがオチでしょう」

ホテルにチェックインした後、落込んでいるであろうHさんをさそって軽く飲みにいこうと思ったが、彼の部屋番号を思い出せない。Gさんの部屋なら覚えているのでまずはGさんの部屋に向かった。その時ある部屋よりあきらかに白酒とわかるにおいがしてきた。これはわかりやすい。ベルを鳴らすとやはりHさんである。彼は今晩、白酒で乾杯を繰り返す宴会の夢でも見るのであろう。

Hさん、「夜汽車で一人いい思いをしたからプラス・マイナスゼロだ」などとは絶対に思っていませんよ、おそらく。

(参考文献)
西域をゆく 井上靖 司馬遼太郎 文春文庫
対談中国を考える 司馬遼太郎 陳瞬臣 文春文庫
地球の歩き方39 中国B西安とシルクロード ダイヤモンド社
イラストガイドシルクロード 人民中国出版社

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