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西施を助手席に載せて杭州近郊をドライブ

湖州で318号線から乗り換えた104号線は杭州へ続くのだが、途中でちょっと寄り道して莫干山へ行ってみた。104号線で暫く走り、看板に従って右に曲がってから15分ほどのところである。

莫干山は標高500m程の山であり、頂上一帯にホテル等が立地している。頂上への道は細く曲がりくねっているので運転歴が浅い人はやめておいたほうがいいかもしれない。この地は解放前の金持ちの別荘地であったようで、外観がしゃれた建物が散見される。

車からおりて少し歩いてみると、竹林を抜ける風がなんとも心地よい。私がおとずれた国慶節前後は人が多いが、人の少ない時にくれば都会の雑踏を忘れるには実に言い場所である。宿泊施設が数件あり、うち浙江莫干山荘は外観は三星くらいでなかなか快適そうなホテルだ(電話番号は0572-803-3421)。

蒋介石と宋美齢夫妻も1937年と1948年の2回この地を訪れているとのことである(1937年はハネムーンだったらしい)。二人が滞在したという建物があり、中の様子を見ることができるのだが、そこで宋美齢の写真を数点見かけた。宋美齢といえばその美貌と国際性で有名で、商を傾けた妲己、周を傾けた褒ジ、そして呉を傾けた西施等の中国美女列伝に連なる傾国傾城だと言う人もいる。実際に彼女によって中華民国は傾いたのかもしれない。なぜかこれまで宋美齢の写真を見る機会がなく、絶世の美女とされる彼女の顔を一度拝みたいとずいぶん前から思っていたのだが、ついに見ることができた。しかし印象では彼女はややふっくらした楊貴妃タイプの美女であり、西施タイプの痩せ型がすきな私としてはややがっかりでもあった。

上海から杭州まで、莫干山への往復を除けば250キロ程度であった。杭州からの帰りには嘉興・松江経由という通常よく使われるルートをとったが、湖州経由は50キロ程距離が伸びるものの、道がよくかつわかりやすく、帰りには少し迷ったということもあるが湖州経由の方が時間も短く(湖州経由約4時間、嘉興・松江経由約5時間)、疲労はずっと少なかった。

さてこのあたりで、本編の冒頭で予告させていただいたとおり、中国での車の運転について私が日頃思っていること・感じていることをご紹介してみたい。

私は自分で運転をするが、よく人から「中国で運転する気によくなれますね」といわれる。しかし中国には中国のルールがあり、それに慣れればなんということはない。むしろ久しぶりの日本で運転すると日本での運転に戸惑うこともある。以下は中国での特殊なルールを列挙してみた(ただし法律上のルールではなく習慣上のルールである)。

まずは交差点以外の市街地で走行する際のルール。

車線変更などの際には他の車はまず譲ってくれない。タイミングを見はからい、突っ込めると思ったら躊躇せずに一気に事を起こす必要がある。中国の都市での運転で一番難しいのがこのテクニックだ。慣れるまでには結構時間がかかる。なお、このルールに関連して思うのは日本のドライバーは恐いということだ。上海では、容易には譲ってくれないが一度入ってしまえばそれがどんなにひどい割り込みでもまず文句は言われない。あっさりしたものである。しかし日本では無理な割り込みをすると、少なくとも睨まれるし、中指は立てられるし、追い抜いてきて急に前に入るなどの仕返しを受けることもある。中国で長く運転して久しぶりに日本で運転すると日本人の冷たさみたいなものを感じる。ルールを守らないものに対して実に冷淡な国民性のようだ。

上述のルールと関係することだが、割り込める限りは割り込んでいいというルールがあるので、2車線から1車線に変わるために渋滞している時などはボーとしていると次から次へと自分の前に車が入りいつまで立っても前に進めないという事態に陥る。前の車のバンパーにぶつかりそうになるくらい詰めなくてはならない。

運転中は常に真剣でなければならない。幹線道路と高架道路が交わるところでは幹線道路の真ん中に高架道路の支柱が立っている時がある。幹線道路でも突然道が細くなったり大きな穴が空いていることもある。ここでは居眠り運転の心配はいらない。そのような余裕は全くないのだ。彼女を助手席に乗せていても中央高速道路を新宿方面から八王子方面に走る時のように、窓を開けて片手でハンドルを持って片手で肩を抱いたりしてはいけない。「愛している」などと言う前に「ベルトをしたか?」と尋ねた方が無難だ。

運転中に最も注意を向けなくてはならないのがバイクである。バイクはブラウン運動、すなわち予想の全くできない動きをする。以前片側2車線の道で追越し車線でバイクを抜こうとした時に突然バイクが左折を始めて「あわや」という思いをしたことがある。自転車や歩行者も意味不明な動きをするが、バイクはスピードがあるので特にタチが悪い。運転中はバイク・自転車・歩行者の存在をいち早く察知し、そのとりうる全ての行動を念頭に置き、最悪の事態にも対処できるようにして通過しなくてはならない。ただ不思議なもので運転に慣れてくると彼らの動きをかなり読めるようになってくる。私の車に同乗する人は自転車等の無謀な動きを見て肝を冷やすようだが、私にとっては予想の範囲の動きであり驚くに値しないということが多い。

次に交差点でのルール。これは歩行者である皆さんもご存知のものが多いと思う。

お気づきの方も多いと思うが、交差点では頭を突っ込める方が勝ちというルールがある。日本やアメリカでは直進優先だが、中国では左折でも右折でも相手の前方に出ることができるタイミングにある車が優先される。よく「頭を突っ込んだ方が勝ち」という言い方をする人がいるが厳密にいえば誤りだ。途中で加速をすれば頭を無理に突っ込むことができる位置にいたもダメである。あくまで現状のスピードでいけば先に交差点に入れるタイミングの車が優先されるのだ。よく交差点で左折車がづらづらと並びいつまでも直進する車が待たされている光景を見かけるが、それはこのためである。

これも上海に住んでいる方は皆ご存知のことだが、車は歩行者に対し優先される。日本からの出張者をご案内する際は必ず「交差点で車は止まりません。十分注意して下さい」と真顔で、それも2~3回言わなくてはお客さんを無事に次の目的地に送り出すことはできない。

特に夜中だが、信号を無視するタクシーに乗りあわせたことがおありだろう。でも信号は無視されるものだと考えるのは誤りである。公安が立っている交差点では日本以上に秩序が保たれる。信号が黄色になってから交差点に突っ込む車はいないし、交差点そば及び中での車線変更もほとんどない。公安は大変厳格で、彼らの前では少しのミスも許されない。交差点の真ん中に立つのはさぞ危険だと思うが、彼らの仕事ぶりには誠に敬服する。なお、夜中に誰も見ておらず他の車もいなければ信号で止まらないというのも合理的といえば合理的な考えではある。

ついでに法律上のルールを追加しておくと、交差点においては右折は原則信号に従わなくてよい。ただこのルールが結構困るのだ。上で述べたように車は歩行者に対し優先されるものだから、右折車が続く場合は歩行者はいつまでたっても横断歩道を渡れない。

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